マーケター採用のコスト|紹介料の返金と小さく雇う総額

マーケター採用のコスト|紹介料の返金と小さく雇う総額 マーケティング

マーケターの採用コストは、紹介手数料・会社負担の保険料・合わなかったときの損失まで入れて見積もるもので、年収に紹介料の率を掛けただけでは稟議に出せる予算になりません。早く辞めたときに戻る返戻金、本採用を見送るときの費用、週の時間を絞って雇ったときの社会保険の線で、実際の負担が大きく動くからです。

答えの要点は3つです。紹介手数料は契約で決まる基準額と返戻を差し引いた実負担で見ます。合わなかったときは損失の上限を式で置きます。短時間で雇うなら週20時間の線の前後で総額を分けます。この記事では、職業安定法・労働基準法・日本年金機構などの原文をもとに、それぞれを自社の数字に直す手順を示します。なお、ここで扱うのは法的な助言ではありません。個別の判断は労働局・年金事務所・社会保険労務士などに確かめてください。

  1. マーケター採用にかかる費用の全体像
    1. 採用の前と後で出ていく費用の内訳
    2. 手数料と保険料で基準になる賃金の違い
    3. 採り方ごとに支払いが生じる時点
  2. 人材紹介の手数料が決まる仕組み
    1. 上限制手数料と届出制手数料の違い
    2. 紹介手数料を請求できる時点の決まり
    3. 手数料の基準になる年収の範囲
    4. 契約前に紹介会社へ確かめる項目
    5. 公的サイトで見られる手数料率の実績
  3. 早期退職で戻る手数料と保証期間
    1. 返戻金の率と期間は各社の制度で決まる
    2. 返戻を差し引いた実際の負担額の出し方
    3. 辞め方で返戻の扱いが変わるかの確かめ方
  4. 採った人が合わなかったときの損失の上限
    1. 合わなかったときに失う費用の式
    2. 損失の上限を入社前に決めておく手順
    3. 雇う前に業務委託で試す場合の撤退の費用
  5. 試用期間で見るものと本採用を見送るときの制約
    1. 試用期間の法的な位置づけ
    2. 本採用を見送るときの予告と手当
    3. 試用期間中に残しておく評価の記録
  6. 週の稼働を絞って雇うときの総額
    1. 短時間で雇う場合の総額の式
    2. 経験者が受けやすい稼働時間と雇用の線
    3. 契約社員やパートで雇うときの待遇の決まり
    4. 副業中の人を雇うときの労働時間の通算
  7. 社会保険と雇用保険の会社負担が生じる線
    1. 2026年10月時点で加入が必要になる条件
    2. 今後の改正で線が動く予定と時期
    3. 線をまたいだときに増える会社負担の出し方
  8. 正社員で採るか小さく雇うか外に頼むかの決め方
    1. 3つの選び方の費用を同じ期間でそろえる
    2. 稟議に添える前提と確かめ先
  9. まとめ

マーケター採用にかかる費用の全体像

マーケター採用にかかる費用の全体像

採用の費用は、採るまでに外へ払う費用、採った後に毎月出る費用、合わなかったときに失う費用の3つに分かれます。以下の章では、紹介手数料と返戻、合わなかったときの損失と試用期間、短時間で雇う総額と保険の線の順に、各項目を自社の数字に直していきます。

採用の前と後で出ていく費用の内訳

採用の費用は、外部への支払い・社内の工数・入社後の固定費の3段に並べると、稟議の抜け漏れを防げます。金額は契約と募集条件で変わるため、まず行だけを洗い出します。

区分 主な項目 出ていく形
外部への支払い 紹介手数料、求人媒体の掲載料、スカウトサービスの利用料 紹介会社や媒体の運営会社への支払い
社内の工数 書類選考と面接の時間、入社手続きの事務 担当者の人件費
入社後の固定費 給与、会社負担の保険料、業務で使うツール 毎月続く支出

3段のうち稟議で落ちやすいのは、社内の工数と会社負担の保険料です。外部への支払いだけを予算に置くと実際の負担を小さく見積もるので、3段とも行を立てておきます。

手数料と保険料で基準になる賃金の違い

稟議に想定年収を1つ置いても、紹介手数料と会社負担の保険料は同じ数字から計算されません。基準がずれたまま足し合わせると、どちらかを多く見積もるか少なく見積もるので、項目ごとに基準を分けます。

上限制の紹介手数料は、支払われた賃金額が基準で、6か月を超えて雇われた場合は6か月分の賃金で計算します(職業安定法施行規則の別表)。届出制の紹介手数料は、紹介会社が届け出た手数料表と契約が基準を決めます。保険料は、毎月の報酬を区切りに当てはめた標準報酬月額に率を掛けて出します(日本年金機構 厚生年金保険の保険料)。

想定年収そのものは、賃金構造基本統計調査の職種分類に「マーケティング」を含む職種名が無いため、公的な平均値を置けません。自社の募集条件で決めた額を起点にします。

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採り方ごとに支払いが生じる時点

採り方によって、費用を払う時点が違います。採れる前に払うのか、採れた後に払うのかで、空振りしたときに残る費用が変わるため、予算は時点ごとに分けて組みます。

人材紹介は、紹介された人の入社が決まってから手数料が生じる形が中心です。求人媒体は、応募の有無に関わらず掲載した時点で費用がかかります。スカウトは、候補者のデータベースを使う期間に対して利用料を払います。

採れなかったときに費用が残るのは媒体とスカウトです。紹介は採れなければ支払いが生じにくい一方、採れたときの1件の額が大きくなります。急ぐ度合いと、空振りしても構わない予算の幅を先に決め、その幅でどの採り方から使うかを選びます。

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人材紹介の手数料が決まる仕組み

人材紹介の手数料が決まる仕組み

紹介手数料の取り方は、法令で上限制と届出制の2つに分かれます。上限制には法令の上限額がありますが、届出制には割合の上限が無く、額は紹介会社が届け出た手数料表と契約で決まります。見積もりを受けたら、どちらの方式かを最初に確かめてください。

上限制手数料と届出制手数料の違い

同じ紹介でも、上限制なら負担に法令の天井があり、届出制なら天井は紹介会社の手数料表しだいです。方式によって確かめる書類が変わるので、料率の高低を比べる前に方式を聞きます。

上限制の上限額

上限制の上限は、職業安定法施行規則の別表が次のように定めています。

場面 上限
原則 支払われた賃金額の11%
同じ人を6か月を超えて雇った場合 6か月分の賃金の11%
期間の定めのない雇用で6か月を超えて雇った場合 6か月分の賃金の11%か、賞与などを除いた6か月分の賃金の14.8%の大きい方
求人の受付手数料 1件710円

紹介会社が消費税の免税事業者なら、率は10.3%と13.9%、受付手数料は660円が上限です。

届出制の手数料表

届出制は、厚生労働大臣に届け出た手数料表の額を受け取れる方式で、法令に割合の上限の数字はありません。手数料表の変更命令が出るのは、特定の者を不当に差別して扱う場合と、手数料の定めがはっきりしないために著しく不当な場合の2つです(厚生労働省 職業紹介事業パンフレット)。届出制の見積もりは、率を世間の水準と比べるより、手数料表と基準額の定義を読み合わせる方が判断を誤りません。

紹介手数料を請求できる時点の決まり

手数料を受け取れる時点も、方式ごとに法令で決まっています。支払いが返戻の対象期間より前に来るかどうかで、早く辞めたときに立て替える額が変わるため、請求の時点は契約前に確かめます。

上限制は、手数料の基礎になる賃金が支払われた日以降に受け取れます。ただし、雇用に至らなかったときなどの精算を約束していれば、求人の申込みを受けた時以降に受け取れます。届出制は、求人の申込みを受けた時以降に受け取れます。入社のどの時点で請求されるかは、手数料表と契約で決まります。

1つの紹介会社が分野ごとに両方の方式を使うことはありますが、同じ人について両方を取ることはできません。請求書が届いたら、方式・基準額・請求の時点の3点が契約と合っているかを照らし合わせます。

手数料の基準になる年収の範囲

見積もりに出てくる「理論年収」は法令に無い語で、何を含めるかは手数料表と契約書が決めます。賞与や手当を含むかどうかで請求額が変わるので、契約前に定義を書面で確かめます。

職業安定法と関係する法令の原文を確認した範囲では、「理論年収」という語は出てきません。賞与・各種手当・残業代・通勤手当を基準額に入れるかは、紹介会社ごとの定義です。

公的な定義として目安になるのは、紹介会社が公開する平均手数料率の計算です。施行規則とパンフレットは、手数料の合計を「1年間に支払われることが見込まれる賃金額」の合計で割った率としています。自社の契約の基準額がこれと同じ範囲か、残業代や通勤手当まで含むのかを並べると、同じ率でも請求額がずれる理由が見えます。

聞き方は次の2つで足ります。

  • 理論年収には賞与・残業代・通勤手当のどれを含みますか
  • 基準額の計算方法は手数料表のどこに書いてありますか

契約前に紹介会社へ確かめる項目

手数料と返戻金の条件は、紹介会社が書面などで示す事項です。示された書面を読むだけで終えず、次の項目を契約前に質問して埋めておくと、入社後の請求で食い違いが起きにくくなります。

確かめる項目 そのまま聞ける質問
方式 上限制と届出制のどちらですか
料率 基準額に掛ける率は何%ですか
基準額の定義 理論年収に何を含みますか
最低手数料 年収が低い場合の下限額はありますか
請求の時点 入社日と初回の給与支払日のどちらで請求しますか
返戻金 何か月以内の退職で、いくら戻りますか
違約金の規約 違約金の定めはありますか

紹介会社は、求人の申込みを受けた後、手数料と返戻金に関する事項を書面などで示す義務を負います(職業安定法32条の13)。違約金の規約を設けている紹介会社には、令和7年4月1日から規約を示す義務も加わりました。回答が「担当者に確認します」で止まった項目は、書面で答えをもらってから契約します。

公的サイトで見られる手数料率の実績

紹介会社の実績は、厚生労働省の人材サービス総合サイトで確かめられます。営業資料の数字だけで選ばず、法令で掲載が決まっている項目と見比べると、手数料と定着の実態をつかみやすくなります。

紹介会社は、職業安定法32条の16第3項に基づき、次の情報を人材サービス総合サイトに載せる義務があります。

  • 紹介で就職した人の数と、そのうち期間の定めのない雇用で就職した人の数
  • 無期雇用で就職した人のうち、6か月以内に辞めた人の数(解雇による離職を除く)
  • 手数料に関する事項
  • 返戻金に関する事項

手数料に関する事項には、令和7年4月1日から、前年度の常用就職が多い上位5職種の平均手数料率が入ります。ただし、前年度の常用就職が10件以下の職種は掲載が要らず、定額で取る会社は率の代わりに額を載せられます。マーケター職の率が載っていないときは、契約前の質問で補います。

早期退職で戻る手数料と保証期間

早期退職で戻る手数料と保証期間

返戻金の率と期間は、法律で一律には決まっていません。紹介会社ごとの制度と契約で決まるため、手数料を払う前に、在籍月数ごとの返戻率を入れた式で実際の負担を出しておきます。

返戻金の率と期間は各社の制度で決まる

返戻金制度は法令に定義がありますが、設けるかどうかと、率と期間の決め方は紹介会社に委ねられています。「保証期間」という言葉も契約によって指す中身が違うので、呼び名ではなく書面の数字で確かめます。

職業安定法施行規則は、返戻金制度を、紹介で就職した人が早期に離職したときに手数料の全部または一部を返す制度と位置づけています。国の指針(平成11年労働省告示第141号)は、有料の紹介会社がこの制度を設けることを「望ましい」としており、義務ではありません。

そのため、返戻金の定めが無い契約もありえます。「保証期間」と説明されたら、その期間内に辞めたときに何%戻るのか、期間の途中で率が下がるのかを書面で聞きます。

返戻を差し引いた実際の負担額の出し方

実際の負担は、払った手数料から、辞めた時点の在籍月数に応じて戻る額を引いて出します。返戻率は契約書から読み取り、一般的な率で置き換えないことが、稟議の数字を外さない条件です。

式は次のとおりです。

実負担=手数料-手数料×辞めた時点の在籍月数での返戻率

辞めた後に再び紹介で採るなら、次の採用の手数料が別に加わります。

2人目までの負担=1人目の実負担+2人目の手数料

契約で在籍月数の区切りごとに率が決まっている場合は、区切りごとに実負担を出して表にします。

辞めた時点 返戻率(契約書から) 実負担
1つ目の区切りまで a 手数料×(1-a)
2つ目の区切りまで b 手数料×(1-b)
返戻の期間を過ぎた後 0 手数料の全額

最下段が、返戻を見込めない場合の最大の負担です。稟議には最下段の額を上限として置き、返戻は戻れば負担が軽くなる分として扱うと、予算を超える事態を避けられます。

辞め方で返戻の扱いが変わるかの確かめ方

返戻の対象になるかは、辞め方によって契約で扱いが分かれることがあります。自己都合・解雇・試用期間中の見送りのどれが対象かを、法令で決まっている事実と切り分けて確かめます。

法令で決まっている事実は3つです。期間の定めのない雇用なら、本人から退職を申し入れた日から2週間で雇用が終わります(民法627条1項。有期の契約には当たりません)。紹介会社は、紹介した無期雇用の人に、就職から2年間は転職を勧めてはなりません(国の指針)。紹介会社が公開する離職者数は、解雇による離職を除いて数えます(職業安定法32条の16第3項)。

返戻の条件は契約しだいなので、次の質問を足しておきます。

  • 解雇や試用期間中の見送りで辞めた場合も、返戻の対象ですか
  • 退職の申入れから退職日までの期間は、在籍月数に数えますか

採った人が合わなかったときの損失の上限

採った人が合わなかったときの損失の上限

合わなかったときの損失は、一般的な離職率から推し量るのではなく、自社の契約と期間を入れた式の最大値で見積もります。最大値が分かれば、どこまで待ち、どこで判断するかを入社前に決められます。

合わなかったときに失う費用の式

合わなかったときの損失は、在籍中に払った費用、見送りにかかる費用、次の人が決まるまでの費用を足して出します。上限を見るための式なので、払った給与も損失の側に入れて保守的に置きます。

損失=在籍中の給与+会社負担の保険料+手数料の実負担+見送りに要る費用+再募集の費用+次が決まるまでの空白の損失

二重に数えない項目

再募集でも紹介を使う場合、次の手数料は再募集の費用の側で一度だけ数え、手数料の実負担と重ねて入れません。在籍中の給与は、働いた分の成果があれば実際の損失は小さくなりますが、上限を見るために全額を入れます。空白の損失は、止まる施策の月あたりの粗利×次が決まるまでの月数で出し、月数は自社の過去の募集にかかった期間で置きます。

試用期間中の保険料

試用期間中でも報酬を払えば、厚生年金と健康保険の使用関係にあたり、会社負担の保険料が出ます(日本年金機構 適用事業所と被保険者)。試用期間だから保険料はかからないと考えて、式から外さないでください。離職率や再採用の倍率のような一般の数字は、この式には使いません。

損失の上限を入社前に決めておく手順

損失は、判断する時点を早めるほど小さく止まります。返戻の期間・試用期間・再募集にかける月数の3つの区切りを入社前に決めて稟議に書いておくと、迷いながら費用を積み増す事態を防げます。

  • STEP1:返戻の期間が終わる日付を契約書から書き出す
  • STEP2:試用期間が終わる日付を就業規則から書き出す
  • STEP3:再募集にかける月数の上限を決める
  • STEP4:それぞれの時点で判断した場合の損失を式で出す
  • STEP5:損失が予算の内に収まる最も遅い時点を、判断の期限として稟議に書く

返戻の期間の内に判断すれば手数料の一部が戻る可能性があります。どの時点で判断しても損失が予算を超えるなら、正社員で採る前に、小さく雇うか外に頼む選び方と比べます。

雇う前に業務委託で試す場合の撤退の費用

雇用で採る前に、業務委託で同じ業務を試す選び方もあります。雇用の見送りにかかる費用と並べるときは、業務委託にも最低期間があり、やめるまでに払う額が契約で決まっている点を入れて比べます。

当社のマーケティング領域の業務委託マッチングでは、契約は最低3か月からで、解約には1か月前の予告が要ります。予告を出せるのは最低期間が過ぎてからで、3か月に満たないうちに終えても、満了までの残りの月数分は支払いが生じます。撤退の費用を最低期間の分として先に見込めるので、雇用の見送りにかかる予告の費用や在籍中の給与と、同じ期間で並べられます。

社員として採って育てる道も、外部の人で先に試す道も、それぞれ筋の通った選び方です。合う人かを見極める期間に、どちらの負担が小さいかで決めます。

試用期間で見るものと本採用を見送るときの制約

試用期間で見るものと本採用を見送るときの制約

試用期間は、本採用を自由に見送れる期間ではありません。見送りには解雇と同じ制約と手続きがかかるため、何を見て、どう記録し、いつ判断するかを入社前に決めておきます。

試用期間の法的な位置づけ

試用期間中の雇用は、判例では、会社が解約する権利を残したまま成立した労働契約と扱われています。見送りは通常の解雇より広く認められるものの、理由と相当性が問われる点は変わりません。

見送るには、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められることが必要です(労働契約法16条、確かめよう労働条件 試用期間の裁判例)。採用の時点では知りえなかった事実が試用期間中に判明し、雇い続けるのが適当でないと判断できる場合が典型です。

試用期間の長さに法律上の上限は定められていませんが、適性の判断に必要な期間を超えて長く置くと、無効とされることがあります。長く置くほど見極めやすくなるわけではないので、任せる業務の成果が見える期間を目安に長さを決めます。

本採用を見送るときの予告と手当

本採用を見送ることは法律上の解雇にあたるため、予告か手当が要ります。損失の式にある見送りに要る費用には、この額を入れます。

解雇には、少なくとも30日前の予告か、予告をしない場合の30日分以上の平均賃金が要ります(労働基準法20条1項)。予告の日数は、平均賃金を払った日数の分だけ短くできます(同条2項)。試用期間中の人は、雇入れから14日以内なら予告の対象外ですが、14日を超えて働いていれば対象になります(同法21条)。

30日前に予告すれば手当はかかりませんが、その30日分の給与と会社負担の保険料は払い続けます。予告と手当のどちらを選んでも、見送りの費用はおおむね30日分の人件費と見込んで式に入れます。

試用期間中に残しておく評価の記録

入社時に任せる業務と評価の基準を書面で示し、指導した内容と結果を残しておくと、見送りの判断で争いになりにくくなります。法律で義務づけられた書類ではありませんが、見送りの理由を説明する材料になります。

残しておく記録は次の3つです。

  • 入社時に示した、任せる業務と期待する成果
  • 指導した日付と内容、その後の変化
  • 本人に伝えた評価と、本人の受け止め

中央労働委員会が公開するあっせん事例では、試用期間中に解雇された社員が、理由の説明が無いことや事前の指導が無いことを挙げて争いました。会社は手続きの一部の不備と指導の不足を認め、別の支店で改めて雇用契約を結ぶ形で解決しています(中央労働委員会 あっせん事例)。解雇の有効・無効を判断した事例ではありませんが、指導の記録が見送りの説明を左右することがうかがえます。

週の稼働を絞って雇うときの総額

週の稼働を絞って雇うときの総額

正社員ではなく、短時間の契約社員やパートで雇っても、総額は時給と時間を掛けただけでは決まりません。会社負担の保険料・有給休暇・正社員との待遇の決まりが乗るため、式に入れてから正社員の総額と比べます。

短時間で雇う場合の総額の式

短時間で雇う年間の総額は、時給と週の所定労働時間に、保険料・有給休暇・採用費を足して出します。時給と時間は募集条件で置き、会社負担の保険料は加入の線を確かめてから入れます。

年間の総額=時給×週の所定労働時間×52週+加入する場合の会社負担の保険料+有給休暇の分の賃金+採用費

時給は、地域ごとの最低賃金以上で置きます(最低賃金法4条1項)。有給休暇は短時間で働く人にも付き、週30時間未満かつ週4日以下なら、日数に比例して少なく付きます(厚生労働省 年次有給休暇のQ&A)。

会社負担の保険料は、加入の線を超えるかどうかで有無そのものが変わる項です。式の各項を自社の数字で埋めたら、同じ12か月の正社員の総額と並べます。

経験者が受けやすい稼働時間と雇用の線

支援してきた中では、マーケティングの経験者が業務委託で受けられる稼働は週10〜20時間が中心で、人によってばらつきが大きいのが実情です。同じ稼働を雇用で確保するなら、所定労働時間を社会保険の週20時間の線の手前に置くか上に置くかで、総額の組み立てが変わります。

この稼働の水準は、業務委託で外部の人に頼む場合の話で、雇用された人の働き方を見たものではありません。ここから先は、その水準を雇用に当てはめた場合の考え方です。

所定労働時間が週20時間未満で、通常の労働者の4分の3にも届かない契約なら、健康保険と厚生年金の会社負担は生じません。週20時間以上で、勤め先が加入の対象になる事業所なら、会社負担の保険料が毎月加わります。経験者に週20時間前後を求めるなら、線のどちらに時間を置くかを募集の前に決め、任せる業務の量と合うかを確かめます。

契約社員やパートで雇うときの待遇の決まり

契約社員やパートで雇っても、正社員との待遇の差を自由に付けられるわけではなく、契約期間の途中で自由に終えられるわけでもありません。試す雇い方として選ぶ前に、次の決まりを総額と見送りの条件に入れます。

短時間・有期雇用労働法は、基本給や賞与などの待遇のそれぞれについて、正社員との間に不合理な差を設けることを禁じています(8条)。雇い入れたときは、厚生労働省令が定める労働条件の事項を、文書の交付などで示す義務があります(6条1項)。

有期の契約は、期間の途中で解雇できるのが「やむを得ない事由」がある場合に限られます(労働契約法17条1項)。正社員の見送りより条件が厳しいため、合わなければ途中で終えればよいという前提で選ぶと見込みが外れます。試す目的で有期の契約を使うなら、契約期間の終わりを損失の式の判断の時点とそろえて設計します。

副業中の人を雇うときの労働時間の通算

本業でも雇われている人を雇うと、労働時間は勤め先が違っても通算されます。通算した時間によっては割増賃金が生じることがあるため、採る前に本業の所定労働時間を確かめます。

労働基準法38条1項は、事業場が異なる場合も労働時間に関する規定の適用では通算すると定めています。週に数時間だけ働いてもらう場合でも、本業と合わせた時間が法定の労働時間を超えると、割増賃金の支払いが生じる場合があります。

採る前に、本業の所定労働時間と、所定外の労働の見込みを本人から聞き取っておきます。通算の手順の細かな扱いは、厚生労働省 副業・兼業の資料で確かめます。

社会保険と雇用保険の会社負担が生じる線

社会保険と雇用保険に入る線は、施行済みのものと今後の予定を日付で分けて見ます。この記事の内容は2026年10月20日に原文を確かめた時点のもので、施行済みと予定を取り違えると総額を誤るため、稟議にも確かめた日を書いておきます。

2026年10月時点で加入が必要になる条件

2026年10月時点では、週20時間以上働き、学生でなく、一定の事業所に勤める人は、正社員より短い時間でも健康保険と厚生年金に入ります。月額8.8万円以上という賃金の条件は、2026年10月1日に撤廃されました(日本年金機構 賃金要件の撤廃のお知らせ)。

保険 加入する条件(2026年10月20日時点)
健康保険・厚生年金 所定労働時間と日数が通常の労働者の4分の3以上
健康保険・厚生年金(4分の3未満の人) 週20時間以上、学生でない、勤め先が特定適用事業所か労使の合意で申し出た事業所
雇用保険 週20時間以上、31日以上の雇用見込み

特定適用事業所は、1年のうち6か月以上、厚生年金の被保険者が50人を超えると見込まれる企業の事業所です。

加入の条件の例外

表の条件には、次の3つの例外があります。

  • 最低賃金の減額特例の許可を受け、賃金が月額8.8万円未満の人は原則として対象外で、申し出れば加入できる
  • 2か月以内の有期契約でも、それを超えて雇う見込みがあれば契約の当初から加入する
  • 雇用保険では、学生は一部を除いて対象にならない(雇用保険法6条4号)

今後の改正で線が動く予定と時期

今後は、社会保険の企業規模の条件が段階的に下がり、雇用保険の時間の線も週10時間に下がる予定です。いずれも施行前の内容なので、採用の時期と重なる改正があるかを日付で確かめます。

時期(予定) 内容
2027年10月 社会保険の企業規模の条件が、従業員36人以上の企業に広がる
2028年10月1日 雇用保険が、週10時間以上働く人に広がる
2029年10月 社会保険の企業規模の条件が、21人以上の企業に広がる
2032年10月 社会保険の企業規模の条件が、11人以上の企業に広がる
2035年10月 社会保険の企業規模の条件が、10人以下の企業にも広がる

社会保険の予定は厚生年金保険法の附則と厚生労働省 社会保険適用拡大特設サイト、雇用保険の予定は令和6年法律第26号による雇用保険法の改正に基づきます。施行の前に内容が変わることもあるため、募集を出す前に原文を確かめ直します。

線をまたいだときに増える会社負担の出し方

週20時間の線をまたいで加入すると、会社負担の保険料が毎月加わります。線の手前で雇う場合との差は、労使で半分ずつ負担する保険料の会社の分として、次の式で出せます。

増える会社負担(月)=標準報酬月額×(厚生年金の率+健康保険の率+子ども・子育て支援金の率)÷2

厚生年金の率は18.3%で固定されています。子ども・子育て支援金は令和8年4月分から0.23%が加わり、労使で半分ずつ負担します(こども家庭庁 子ども・子育て支援金制度)。健康保険の率は都道府県ごとに違い、40〜64歳の人は介護保険料率も加わるため、協会けんぽ 令和8年度都道府県単位保険料率で所在地の率を確かめます。÷2は法令が定める標準の負担割合です。

この式に入るのは、労使で半分ずつ負担する3つだけです。雇用保険や労災保険などの会社負担は含めていないので、率を労働局や年金事務所で確かめてから足します。

正社員で採るか小さく雇うか外に頼むかの決め方

正社員で採るか小さく雇うか外に頼むかの決め方

正社員で採るか、短時間で雇うか、外に頼むかは、各章の式で出した結果を同じ期間でそろえて並べれば、数字で決まります。期間をそろえずに比べると、どれかの負担を小さく見積もります。

3つの選び方の費用を同じ期間でそろえる

3つの選び方は、初年度の総額だけでなく、合わなかったときの損失の上限と、やめるまでに最低限払う額の3列で比べます。値は各章の式で埋め、期間は12か月にそろえます。

選び方 初年度の総額 合わなかったときの損失の上限 やめるまでの最小の支払い
正社員で採る 給与+会社負担+手数料の実負担 損失の式の最大値 30日分の予告か手当
短時間で雇う 短時間の総額の式 有期なら契約期間の満了までの人件費 有期なら契約期間の満了まで
外に頼む 依頼の費用×月数 最低期間の分 最低期間と解約予告の分

表の読み方と判定

  • 正社員の損失の上限が予算を超えるなら、短時間で雇うか外に頼む方から始める
  • 3つとも予算を超えるなら、採用も依頼もまだ始めず、任せる業務を絞り直す
  • 3つの総額が近いなら、社内に知見を残したい度合いの強さで決める

外に頼む場合も、成果と法律上の最終責任は依頼する側に残ります。表の数字は、責任を持って判断する自社の前提で埋めてください。

▼業務委託にかかる費用の目安と、契約の選び方はこちら
外注と業務委託の違い|契約の選び方と費用相場の目安
契約書を前に迷いやすい点ですが、外注は社外に仕事を頼むこと全般を指し、業務委託はそのとき結ぶ契約の呼び方です。この違いを押さえないまま契約すると、指示の出し方や経費の処理で後から困ることがあります。 大事なのは言葉の使い分けより、依頼の中身...

稟議に添える前提と確かめ先

稟議には、出した金額と一緒に、その金額を決めた前提と確かめた先を書きます。前提が書かれていれば、承認する側が数字の根拠を同じ手順でたどれます。
前提 確かめる先
想定年収 自社の募集条件
手数料の方式と基準額の定義 紹介会社の手数料表と契約書
請求と返戻の時点、返戻の期間と率 紹介会社の契約書
紹介会社の就職と離職の実績 人材サービス総合サイト
試用期間の長さ 自社の就業規則
週の所定労働時間と自社の被保険者数 年金事務所
雇用保険の加入の条件と率 労働局
原文を確かめた日 稟議を作った日に近い日付

まとめ

マーケターの採用コストは、年収に紹介手数料の率を掛けただけでは決まらず、次の3つを自社の数字で出してはじめて稟議の予算になります。

  • 紹介手数料は、方式と基準額の定義を確かめ、返戻を差し引いた実負担で見る
  • 合わなかったときの損失は、返戻の期間・試用期間・再募集の月数を区切りにした式で上限を置く
  • 短時間で雇うなら、社会保険の線の手前か上かで総額を分け、施行済みの線と予定の線を日付で分ける

明日できる次の一歩は次の3つです。

  • 候補の紹介会社に、方式・基準額の定義・返戻の条件を書面で聞く
  • 人材サービス総合サイトで、その紹介会社の掲載情報を見る
  • 年金事務所で、自社が特定適用事業所に当たるかを確かめる
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この記事の監修者SOKKIN MATCH事業責任者/倉田 裕貴
SOKKIN MATCH事業責任者:倉田裕貴 株式会社SOKKIN 人材事業責任者

株式会社サイバーエージェントでは、シニアアカウントプレイヤーとして大手企業のコンサルに従事。WEB・アプリ問わず、運用ディレクションをメインに幅広い業種のお客様の課題へ対応してきた実績を持つ。また、マネージャーとして育成業務にも従事。
2022年、株式会社SOKKIN入社後、SOKKIN MATCH事業責任者に従事。

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