一定の所得がある人に対して課せられる住民税は、本来なら自分で支払うべき地方税です。
しかし住民税の支払方法には2通りがあり、会社・企業などの組織に所属して毎月給料が支給されている場合は天引きされています。では、給料から住民税が天引きされる時期は、いつ頃なのでしょうか。
この記事では住民税の徴収方法や算出方法、負担を減らすコツなどを紹介します。住民税について詳しく知りたい人は、ぜひ参考にしてください。
住民税とは
住民税は、市区町村や都道府県で実施されている行政・公共サービスの維持・運営をするための必要経費を目的とした地方税です。
住民税の主な使用用途として、以下のようなものがあげられます。
- 社会福祉費(児童・介護施設の運営など)
- 民生費(子育て支援や生活保護など)
- 土木費(道路整備、住宅の建設・管理など)
- 清掃事業(地域のゴミ収集など)
- 教育費(学校で使用する教科書代や実験器具など)
- その他の行政サービス(消防、救急など)
これらはその地域に住む人たち全員が、何らかの形でお世話になったり利用したりしている施設やサービスです。運営や維持には費用がかかり、それらを確保しなければなりません。その負担を地域住民に分割して負担する税金が住民税です。
住民税の納付はいつから?
住民税は前年分の所得が課税対象であるため、所得がない場合は納税義務が発生しません。
例えば学校を卒業して会社勤めが始まった新入社員の場合、所得がなければ住民税の課税対象外です。ただし、社会人になるまでにアルバイトなどで年間所得が一定額を超えると、住民税の課税対象額になるので注意してください。
なお社会人になりたての場合、給与から住民税が天引きされるのは2年目になってからです。
さらに個人事業主やフリーランスも、所得が一定額を超えなければ納税義務は発生しません。住民税の対象になるかならないかを判断する際に使用されるのが、確定申告です。
【初心者向け】確定申告を1からわかりやすく解説
住民税を納付するタイミング
住民税を納付するタイミングは、1月ではありません。その理由は住民税納税額の決定方法が関係しています。
住民税は前年分の所得額をもとに納税額を算出するため、所得額が確定しなければ住民税の金額も決まりません。
前年分の所得額は3月15日の確定申告の受付終了後から順次確定の手続きが開始され、すべての申告者の所得額が確定するのは4月〜5月頃です。その後、順次住民税の納税有無や納税額が確定されていきます。
このスケジュールでは1月〜5月分の納税には間に合わないので、最初に納税が発生するタイミングは6月です。
住民税が非課税になるケース
住民税は所得割と均等割の2段階で成り立っており、非課税になるケースも2通りあります。
住民税の所得割とは、前年の所得額によって納税額が決定される仕組みです。所得割が非課税になる所得条件は、以下のように設定されています。
生計を同一にする配偶者または扶養家族がいる | 生計を同一にする配偶者または扶養家族がいない |
35万円×(本人+同一生計配偶者+扶養親族)の人数+32万円+10万円以下 | 35万円+10万円=45万円以下 |
一方の住民税の均等割とは、その地域に住む一定の所得があった人全員が負担する住民税です。均等割のみが非課税になることはなく、均等割が非課税になる場合は所得割と森林環境税を含めた住民税全体が非課税になります。
- 生活保護を受けている方
- 障害者・未成年者・寡婦ひとり親で前年所得金額が135万円以下
(給与所得者は2,043,999万円以下) - 生計を同一にする配偶者や扶養家族ありで、前年所得額が以下の計算式で求めた額を下回る場合
35万円×(本人+同一生計配偶者+扶養親族)の人数+32万円+10万円以下 - 配偶者や扶養家族がおらず、前年所得額が以下の計算式で求めた額を下回る場合
35万円+10万円(給与所得者は年収100万円以下)
働き方によって徴収方法は変化する
住民税の徴収方法には「普通徴収」と「特別徴収」の2通りがあり、納税者の働き方によって自動的に決まります。
どのような働き方をすれば「普通徴収」になり、どうすれば「特別徴収」になるのでしょう。
具体的な支払い方法なども含めて解説します。
普通徴収
「普通徴収」とは、納品書で納税する方法です。
毎年6月頃に自宅に納付書が送付されてくるので、それを金融機関やコンビニエンスストアなどに持参して納付書に印字されている金額を納めます。
普通徴収では、1年分の住民税納税額を6月・8月・10月・翌年1月の4回にわけるまたは1年分をまとめて納税するかの2通りの選択が可能です。送付されてくる納付書には、分割分と1年分まとめて支払うためのものの2種類が同封されているので、好きな方で納付しましょう。
一般的に普通徴収は個人事業主・フリーランス・無職である場合に適用される徴収方法ですが、副業をしている人は確定申告をすることで普通徴収の選択ができます。
またクレジットカードで支払いをする場合は、住民税の納税額とは別に手数料が必要です。さらにすべての自治体でクレジットカード払いに対応しているわけでもないので、確認してください。
特別徴収
特別徴収とは、企業・会社などに所属して給与を受け取っている人に適用される住民税の支払い方法です。
住民税が給与から天引きされるのは6月になってからで、翌年の5月まで毎月差し引かれて1年分を納税するシステムです。
新社会人の人は2年目から住民税の納税義務が発生しますが、1〜5月分についてはまだ住民税の納税額が確定していないので天引きされません。6月分から急に受け取る給料の金額が少なくなったと思ったら、住民税が差し引かれているはずなので明細書を確かめてみてください。
ただし副業をしている人でその事実を会社・企業に知られたくない場合は、会社で実施される年末調整の後に確定申告をすれば、申告書第二表で住民税の支払い方法を選択できる欄が設けられているので、ここで「普通徴収」に丸印をつけてください。
住民税の納付額はどのようにして決まるのか
住民税の納付額はどのようにして決まるのか、気になる人もいるでしょう。
住民税は均等割と所得割の2段階方式になっており、それぞれの納税額を計算して合計した金額を住民税として算出しています。
均等割は一定の所得があった人全員が均等に負担する住民税のことで年間総所得額に関係なく負担額は決まっているので、変動はありません。
一方の所得割は年間総所得額に応じて負担額が異なるシステムであり、所得額が多くなれば所得割の負担額も高くなります。
このように住民税には均等割と所得割がありますが、各負担額のなかにも種類があり、その中身は以下の通りです。
中身 | |
均等割 | ・道府県民税/都民税 ・区市町村民税 ・森林環境税 |
所得割 | ・道府県民税/都民税 ・区市町村民税 |
均等割の中に含まれている「森林環境税」は2024年分から導入された税金であり、一定の所得がある人は全員負担します。2014〜2023年度分までの10年間は東日本大震災復興基本法によって、東日本大震災の復興・防災の財源確保を目的に住民税の一律負担が導入されていました。
詳しい算出方法については後述するので、そちらを参考にしてください。
定額減税とは
2024年度の税制改正に伴い、定額減税が実施されることになりました。実施の背景には記録的な物価高があり、多くの国民の生活を圧迫していることを受けて年間総所得額が一定の金額を下回る場合につき、所得税と住民税が減額される特別控除制度です。
給与所得者 | ・7月分から適用 ・特別控除が適用された金額を11分割して2024年5月まで支払う |
事業所得者 | ・2024年度分の確定申告から適用 |
定額減税は物価高を受けて実施された特別控除制度ではありますが、すべての人が対象ではありません。2023年度の年間総所得額が1,805万円(給与所得者は2,000万円)を超える場合は、定額減税の対象外です。
さらに以下の条件に当てはまる場合は、定額減税の一環として設けられている給付金支給制度の対象になり、1世帯につき7〜10万円が支給されます。
- 2023年時点での非課税世帯
- 2024年の新たな非課税世帯
- 低所得者の子育て世帯
ただし自治体によって支給の要件が設けられているので、対象になるかどうかは自治体のホームページなどを確認してください。
住民税の算出方法
住民税の算出方法は、所得割と均等割でそれぞれ異なります。
均等割の算出方法は以下の通りです。
均等割の税金の種類 | 金額 |
道府県民税/都民税 | 1,000円 |
区市町村民税 | 3,000円 |
森林環境税 | 1,000円 |
上記3つを合計した5,000円を均等割として負担することになります。
一方の所得割の計算方法の手順は以下の通りです。
手順 | 方法 | 内容・計算式など |
1 | 1年間の総所得金額の算出 | ・年間総所得額-損失繰越=総所得金額 ・給与所得者は源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」欄を確認 |
2 | 所得控除の合計 | ・「1」で算出した総所得金額から差し引く分 ・主な控除については後述 |
3 | 課税所得の算出 | ・住民税の所得割が課税される金額 ・「2」で合計した控除を「1」の総所得金額から差し引く ・総所得金額-所得控除の総額=課税所得 |
4 | 税額控除前の所得割金額を計算 | ・課税所得×10%(標準税率)=税額控除前の所得割金額 ・標準税率(10%)は自治体によって異なる |
5 | 税額控除を適用して所得割額を算出 | ・課税所得で算出された課税額から差し引く控除 ・主な控除については後述 ・税額控除前の所得割額-税額控除の総額=所得割額 |
上記で算出した所得割に5,000円(均等割)を加算したものが、納税すべき住民税の金額であり、これを納税回数に分割して順次納めていきます。
なお、上記の所得割計算の一覧表で登場した「所得控除」と「税額控除」の主な種類は以下の通りです。
控除項目 | 主な控除 |
所得控除 | ・基礎控除:一定の所得がある人全員に適用 ・配偶者控除/配偶者特別控除:生計を同一にする配偶者が存在する場合に適用 ・扶養控除:生計を同一にする扶養家族が存在する場合 ・寡婦控除/ひとり親控除:一定の要件を満たす寡婦またはひとり親である場合 ・医療費控除:納税者本人または生計を同一にする配偶者やその親族のために一定の医療費を支払った場合 など |
税額控除 | ・寄附金税額控除:ふるさと納税などを行った場合に適用 ・住宅借入金等特別税額控除(住宅ローン控除):新築や中古の家屋を建設・購入した際に適用 など |
上記の各控除は一例であり、ほかにも一定の要件を満たすことで適用可能な控除は多数あります。「No.1100 所得控除のあらまし|国税庁」や「No.1200 税額控除|国税庁」には、それぞれの控除の種類や要件が掲載されているので確認してください。
住民税は年収いくらから納める?住民税の計算から控除まで徹底解説
住民税の負担を減らすには?
住民税は在住する地域の行政サービスや公共施設などの運営・維持に必要不可欠な財源ですが、その負担額を抑えたいと思う人は多いでしょう。
住民税の負担額は、さまざまな控除制度を適用させることで減額されますが、そのなかでも誰でも手軽に利用できる控除制度にふるさと納税があります。
ふるさと納税とはどのような制度なのか、詳しくみていきましょう。
ふるさと納税
ふるさと納税とは、支援したい自治体を選択して寄附をする制度です。ふるさと納税の寄附金は、対象の自治体の行政サービスや公共施設などの運営・維持費に使用されたり、震災などの復興に利用されたりします。
住民税の場合、納税した分の使用対象は在住する地域に限られます。しかし「故郷を支援したい」「震災で多大な被害を被った地域に貢献したい」と考える人もいるでしょう。その際にふるさと納税を行えば、支援や貢献したい自治体に寄附することで、住民税を含む税金の一部が控除・還付されます。
所得税について知ろう あなたの年収に対する所得税額を計算してみよう
住民税を納税する際の注意点
住民税を納付する際は、以下の点に注意したほうが良いでしょう。
- ふるさと納税は寄付金控除として利用
- 税率は自治体ごとに異なる
- 住民税の滞納は罰則対象
それぞれの注意点について解説するので参考にしてください。
ふるさと納税は寄付金控除として扱う
誰でも気軽に利用できるふるさと納税は、寄付金控除として扱います。
住民税の算出方法にて、「所得控除」と「税額控除」のそれぞれの種類を紹介しました。このうち「税額控除」として寄付金控除をあげましたが、ふるさと納税はこの寄付金控除の一部です。
自治体によって税率が異なる
住民税を算出する際の税率は、自治体によって異なります。
本記事の「住民税の算出方法」では「10%(標準税率)」での計算式を紹介しました。地方税法では税率が全国一律10%と定められていますが、自治体の独自条例によって増減措置を行うことが許されています。そのため原則としては一律10%ですが、実際には同一ではありません。
例えば神奈川県は10.025%と高めに設定されている一方で、愛知県名古屋市は9.7%と標準税率を下回っています。
このように自治体によって増減があるので、引っ越しする際には自治体のホームページで住民税の税率を確認したほうが良いでしょう。
住民税の滞納は罰則の対象になる
住民税の滞納は罰則の対象になるので、必ず定められた期日までに納税してください。
住民税の滞納した際の主なメリットは以下の通りです。
- 延滞金の発生
- 督促状や催告書の送付
- 財産調査
- 差し押さえ
延滞税は以下のように計算されます。
なお延滞税を計算する際の税率は延滞期間によって異なり、その利率は以下の通りです。
延滞期間 | 年利率 |
2カ月以内 | 7.3%と「特定基準割合+1%」を比較して低いほう |
2カ月超 | 14.6%または「特定基準割合+7.3%」を比較して低いほう |
特定基準割合とは、国内銀行の貸出約定平均金利の前々年10月〜前年9月までの平均に1%を加算した割合のことで、国内銀行の貸し出し約定平均金利の平均値は財務大臣が告示します。
延滞期間が長くなるほど延滞税は高くなるので、早めに納税したほうが良いでしょう。
また滞納が発生してから20日以内に、管轄する役所から督促状や催告書が送付されてきます。それでも滞納する場合は財務調査が行われ、最終的に差し押さえが行われる流れです。
住民税非課税世帯とは
毎年6月頃までに住民税の決定通知書が送付されますが、納税額を確認して「高い」と感じる人もいるでしょう。
住民税は一定の所得がある人全員が負担する地方税ですが、一定の条件を満たすことで納税の対象外になることがあります。これが住民税非課税世帯です。
住民税非課税世帯として認められるためには、各自治体が定める要件・条件を満たさなければなりません。
住民税非課税世帯となる年収の目安や優遇措置などを紹介するので、参考にしてください。
住民税非課税世帯が受けられる年収の目安
住民税非課税世帯に認定される年収の目安は、家族構成や自治体によって異なるので一概にはいえません。
厚生労働省は総務省の「平成22年3月31日現在の住民基本台帳人口」と「平成22年度市町村課税状況等の調べ」をもとに、収入ベースでの非課税限度額を公開しています。その結果は、以下の通りです。
給与収入または年金収入 | 均等割 | 所得割 | |
1級地 | 3級地 | ||
単身 | 100万円 | 93万円 | 100万円 |
夫婦 | 156万円 | 137.8万円 | 170万円 |
夫婦+子1人 | 205.7万円 | 168万円 | 221.4万円 |
夫婦+子2人 | 255.7万円 | 209.7万円 | 271.4万円 |
高齢者単身(65歳以上) | 155万円 | 148万円 | 155万円 |
高齢者夫婦(65歳以上) | 211万円 | 192.8万円 | 222万円 |
(出典:「少子化の進行と人口減少社会の到来」の「住民税世帯非課税の対象者等」より|厚生労働省)
均等割の「1級地」とは東京都23区や政令指定都市のことであり、「3級地」は一般的な市区町村のことを指します。
上記の一覧表をみるとわかるように所得割よりも均等割のほうが対象となる所得額が低く設定されていることから、年間所得額が均等割以下であれば所得割も同時に非課税になり、住民税全体の非課税世帯になるということです。
住民税非課税世帯が受けられる優遇措置
住民税非課税世帯になると住民税の納税義務が対象外になるだけではなく、以下のような優遇措置も受けられます。
- 国民健康保険料や国民年金保険料の減免
- 医療費負担の軽減
- 保険料や大学授業料の無償化
それぞれの優遇措置についてみていきましょう。
国民健康保険料・国民年金保険料の減免
住民税非課税世帯に認定されると、国民健康保険などが減額される優遇措置の対象になります。
優遇措置 | 内容 |
国民健康保険料 | ・国民健康保険加入世帯全体の所得申告が必要 ・減額の割合は2~7割と自治体によって幅がある |
国民年金保険料 | ・前年の所得金額に応じて全額~4分の1免除 ・全額免除の場合は年額2分の1が保障される ・未納となった場合は保障が受けられないので注意 |
介護保険料 | ・「第1号被保険者」の住民税非課税世帯のみ適用 ・減免される金額は自治体によって異なる |
医療費負担の軽減
医療費負担の軽減措置の主な内容は、以下の通りです。
軽減措置 | 内容や注意点 |
国民健康保険の高額医療費の減額 | ・医療機関での1カ月分の支払いが一定額を超えた場合に適用 ・負担額は年齢や所得に応じて変動 ・差額ベッド代や先進医療は対象外 |
後期高齢医療制度の高額医療費の減額 | ・75歳以上が対象 ・外来は8,000円、外来と入院の場合は24,600円 ・住民税非課税世帯かつ年金収入80万円以下で外来と入院の場合、負担額は15,000円 |
保育料や大学授業料の無償化
住民税非課税世帯に認定されると、2歳以下の保育料は無料です。保育所や認定こども園に支払う利用料が無償化されるので、子どもを預けて働きたい人には嬉しい優遇措置といえるでしょう。
また高等教育就学支援新制度の対象にもなり、授業料の減免や返済義務が発生しない給付型奨学金の利用が可能です。例えば授業料等の減免優遇措置を利用する場合、入学金は上限26万円、授業料は年間上限約70万円までの減免が適用できます。
まとめ
住民税について、主に以下のポイントを解説しました
- 住民税は在住する地域を支える重要な財源
- 住民税の徴収方法は2通り
- 住民税の負担額を減らす場合はふるさと納税がおすすめ
- 住民税の滞納は罰則対象
- 住民税非課税世帯に認定されると別途優遇措置あり
年間所得によって納税額が変動する住民税ですが、さまざまな優遇措置も用意されています。もし金額が高すぎると感じた場合は滞納したりせず、自治体に相談してみてください。
SOKKIN MATCHとは
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