会社・企業などが事業活動で一定の所得を得ると課税される法人税ですが、政府は段階的に減税を行っています。
個人よりも多くの収入を得ているはずの会社・企業の税金が段階的に減らされていることに、不満を抱いている人もいるようですが、政府はなぜ法人税の減税を行うのでしょう。
本記事では、政府が法人税の減税を行うその理由・メリット・デメリットなどを解説します。法人税減税に疑問・不信感を抱いている人は、ぜひ参考にしてください。
法人税を減税するとどうなる?
日本の税収のひとつである法人税ですが、この税金を減税すると国全体の税収が減少するかもしれないと不安を抱く人もいるかもしれません。
法人税を減税すると、国の税収などはどうなるのでしょう。
法人税そのものの知識を深めるとともに、減税が行われる理由などをみていきましょう。
そもそも法人税減税とはなにか
法人税とは、法人が行う企業・事業活動により発生した所得に対して課税する税金のことです。
法人が当該年度で得た収入から収入を得るために必要とした経費や損金などを差し引いた所得金額に対して、一定の税率をかけて法人税を算出します。
法人税減税とは税制改正で実施される要項のひとつであり、法人税を算出する際に使用する税率の引き下げです。
2024年現在の法人税率は、原則として23.2%に設定されています。
▼法人税について詳しく知りたい方はこちら
なぜ減税が行われる?
法人税の減税が行われる理由は、日本企業の国際競争力向上です。
例えば日本企業に勤める従業員のなかで、ビジネス英語に卓越したい人はどれくらいいるでしょう。日本製品のものを海外の顧客に販売しても、英語に卓越した従業員がいなければアフターサポートなどの付加サービスの点で負けてしまいます。
このような非価格競争力を向上させるためには、ビジネス英語の習得をはじめとする社員教育が必要ですが、コストと時間がかかるので積極的に推し進める企業・会社は少ないでしょう。
また法人税減税を実行することで、海外企業を日本国内に呼び込むことも可能です。自国よりも納税額が少ないとわかればさまざまな海外企業が日本に工場・支店などを構え、その分日本の税収は増加します。
法人税減税の目的は日本企業の国際競争力向上ですが、向上すれば日本の経済活動の活発化・活性化も期待できることから、本当の目的は日本経済の成長といえるかもしれません。
減税をすることが世界経済の流れ
法人税減税の理由・目的はほかにも、世界経済の流れに乗ることがあげられます。
世界全体でみた場合、法人税の税率は引き下げの方向に流れているのですが、その理由は自国の技術・などの海外集出を防ぐためです。
「なぜ減税が行われる?」でも触れましたが、税率を下げれば自国で事業活動をするよりも負担額が少なくなるので企業にとっては大きなメリットといえます。その結果、製品・商品を製造する工場や支店などを自国ではなく海外に構える企業は増加するでしょう。
工場・支店などを海外に構えると従業員は現地で調達されることになり、技術やノウハウなどが進出先で流出してしまうことになります。
法人税を減税するメリットとは?
日本政府も法人税の減税を段階的に試みていますが、そのメリットとして以下のようなものがあげられます。
- 国内企業の純利益増加
- 国内産業の空洞化を阻止
- 海外企業の日本国内への進出誘導
- 労働者の賃上げ
それぞれのメリットを掘り下げて確認するので、参考にしてください。
国内の企業の純利益を増やすことが出来る
国内企業の純利益増加は、法人税減税のメリットのひとつです。
法人税は、法人の事業活動で得た収入から経費などを差し引いた金額に税率をかけて計算します。法人税の減税とは、納税額を算出する際に利用する税率であることも解説しました。
納税額の減少に伴い自由に使える純利益が増えることから、更なる企業成長につながる設備投資などが可能です。このような積極的な投資活動はほかの企業の売上増加にもつながるので、日本経済全体の活発化・活性化にもつながります。
国内の産業の空洞化を防げる
法人税減税のメリットとして、日本産業の空洞化防止もあげられます。減税されれば日本国内に工場・店舗などを構えようと考える企業・会社が増加するからです。
日本国内に工場・店舗などの数を増やせば、そこから得られる収入の増加により法人税の納税額は増加します。企業としては可能な限り納税額を低く抑えたいという思いから、法人税が低い海外に構えるのは仕方ないといえるでしょう。
減税されれば納税の負担額が少なくなり、国内での工場誘致などが容易になります。工場・店舗などの国内誘致は雇用促進にもつながることから日本経済の向上にもなり、メリットといえるのです。
海外企業が自国に進出しやすくなる
海外企業への自国進出がしやすくなる点も、法人税減税のメリットといえます。法人税の負担は日本国内の企業だけではなく、多くの海外企業でも抱える問題のひとつだからです。
日本国内の法人税率を引き下げれば納税額が安く抑えられるので、海外企業が日本に工場・支店などを構える確率は高くなるでしょう。多くの海外企業が日本に進出すればそれだけ税収が増加し、日本経済は潤います。
労働者の賃上げがしやすくなる
労働者の賃上げがしやすくなる点も、法人税減税のメリットです。
会社・企業は労働者の賃上げをしたくても、事業収益が低ければその分の財源が確保できません。法人税の納税額が高ければ、事業所得から差し引かれる金額は大きくなるので賃上げをしたいと考えていても現実問題として不可能です。
減税すれば事業収益はアップし、自由に使用できるお金も増加します。収益が上がれば労働者への還元の意味も込めて賃上げやボーナスアップなどをする企業・会社も増えてくるでしょう。
さらに賃上げは消費意欲増加にもつながることから、さまざまな商品・サービスなどの売上・利用者数が増えて国全体の経済力アップも期待できるでしょう。
法人税減税を行う際のデメリットとは
法人税減税を行うことで得られるのは、メリットだけではありません。前項目で多方面にわたってメリットを紹介してきましたが、反対に以下のようなデメリットが発生するリスクがあります。
- 一時的な税収の減少
- 国内ライバル企業の増加
上記のデメリットを解説するので、メリットとあわせて参考にしてください。
減税を行った直後の国の税収が減ること
減税を行ったことで一時的な税収の減少が起こる点は、デメリットとしてあげられるでしょう。
減税を行うことでさまざまなメリットを紹介しましたが、それらの効果が目に見える状態になるまでには一定の時間が必要です。
減税を行えば法人が負担する納税額は減少し、それに比例して国の税収は一時的ではありますが減ってしまいます。
国内の企業のライバルが増えること
国内でのライバル企業増加も、減税を行う際に予想されるデメリットのひとつです。
法人税の税率を下げることでさまざまな海外企業からの国内支出が期待できますが、それは同時に海外企業の日本進出によるライバル増加を意味しています。
国内にはさまざまな規模の企業があり、そのすべてが海外のライバル企業に勝てるわけではないことから、中小企業の競争力強化を目的とした何らかの救済措置が必要です。
またこのような事態を避けるためにも大幅な減税ではなく、減税率を小さくして長期にわたって実施することも重要といえるでしょう。
日本の法人税は高い?
世界経済は減税の流れになっており、その流れに沿う形で日本でも段階的な減税が実施されています。しかし、そもそも日本の法人税は世界からみて高いのでしょうか。
財務省が2024年1月付で公開した「法人税など(法人課税)に関する資料」の「諸外国における法人実効税率の比較」では、日本・ドイツ・アメリカ・カナダ・フランス・イギリス・イタリアの計7カ国の実効税率を比較しています。
順位
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国
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実効税率
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1位 | ドイツ | 29.93% |
2位 | 日本 | 29.74% |
3位 | アメリカ | 27.98% |
4位 | カナダ | 26.50% |
5位 | フランス | 25.00% |
5位 | イギリス | 25.00% |
7位 | イタリア | 24.00% |
日本はドイツに次いで2位であり、経済大国と呼ばれているアメリカよりも日本のほうが2%以上も税率が高いことがわかります。
上記の一覧表をみると日本の実効税率は高いイメージですが、2014年度の34.62%から段階的に引き下げられて現在に至っており、ようやく世界基準に近づいたといえるでしょう。
【法人税のパラドックス】法人税減税することで税収が上がる?
法人税のパラドックスとは、減税を実行したにもかかわらず税収が上がった現象のことです。
一般的に税率を下げれば法人が負担する納税額は減少するので、国の税収は下がると考えるのが自然でしょう。しかし実際には反対に税収が上がったことがあり、その明確な原因・背景は現在もわかっていません。
法人税減税によって税収が上がった減少には、以下のような理由が関係しているといわれています。
- 海外企業の投資増加
- 減税と各企業の利益率増加のタイミングの偶然一致
- 減税と同時に行った課税所得算定方法の変更
上記の理由はあくまでそのように考えられているだけであり、確実性の高いものではありません。
またすべての国で減税によって税収が上がったわけではなく、下がったところもありました。
減税が税収アップにつながるとは一概にいえませんが、欧州諸国では減税による税収増加を実証済みであることから、必ずしも税収減少につながるとはいえないことも事実です。
法人税の仕組みを理解するために抑えるべきポイントとは?
法人税の減税を知るためには法人税の仕組みを理解することが重要であり、そのポイントとして以下のようなものがあげられます。
- 法人実効率と法人税の違い
- 課税ベース
それぞれの抑えるべきポイントを解説するので、法人税の理解を深めてください。
法人実効税率と法人税率の違いを理解する
法人税の税率には法人実効税率と法人税率の2種類があり、いずれも「法人」という言葉がついていますが、異なるものとして考えなければなりません。
税率
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内容・概要
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法人税 | 国税のひとつである法人税を算出する際に用いる税率 |
法人実効税率 | ・企業や会社が実質的に負担する税率のこと ・損金算入によって調整 ・資本金額や所得額による変動制 ・法人税、住民税、事業税を使用し総合的に計算 |
日本の法人税の税率は資本金の額・年間所得額・開業事業年度によって異なりますが、2024年現在は23.4%が上限です。一方の法人実効税率は、以下の計算式で算出します。
「日本の法人税は高い?」にて財務省発表の法定実効税率の順位表を紹介しましたが、ここで示されている日本の29.74%という数字は上記の計算式を用いて算出されたものです。
「法人」「税率」という言葉が入っていますが、法人税と法人実効税率は全く別物であることを抑えておいてください。
課税ベースについて理解を深める
課税ベースとは、課税所得額のことです。
手順
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求める金額
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計算式
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1 | 年間所得額 | 年間総収入額-経費・損金 |
2 | 課税所得額 | 年間所得額-所得控除 |
法人税改革の一環として、課税ベース(課税所得額)の拡大と税率引き下げの同時実施の必要性が指摘されています。課税ベース(課税所得額)が拡大すれば税率引き下げを実施しても、税収はそこまで大きく下がらないからです。
条件
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納税額
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課税ベース(課税所得額) | 税率 | |
500万円 | 25% | 500万円×25%=125万円 |
600万円 | 23% | 600万円×23%=138万円 |
上記は単純な計算シミュレーションですが、課税ベースが増加することで税率を下げても納税額が高くなっていることがわかります。
法人税減税による中小企業や大企業に行っている措置とは?
法人税減税の一環として、中小企業や大企業に以下のような措置が取られています。
- 中小企業における税制優遇措置
- 大企業における優遇措置
それぞれの措置を確認していくので、参考にしてください。
中小企業における税制優遇措置
法人税の税率は開業事業年度などによって異なりますが、2018年4月1日以降に開業した場合には原則として23.2%です。
しかし中小法人(企業)に対しては、年間所得額800万円以下の部分に適用される税率については本則の19%ではなく15%に軽減されます。
そのほかにも中小企業が設備投資を行った際には「中小企業経営強化税制」「中小企業投資促進税制」といった2つの優遇措置が設けられており、設備投資の費用全額の経費算入や税額控除の利用が可能です。
経費算入や税額控除は法人税の納税額が低く抑えられるので、多くの中小企業にメリットがあるでしょう。
大企業における優遇措置
中小企業に比べて大企業に対する優遇措置はあまり多くないと感じる人もいるかもしれませんが、積極的な雇用対策などを行っている場合には優遇枠が設けられています。
例えば子育て支援や女性の活躍を後押しする活動などを積極的に行うと、税額控除率が5%上乗せされる優遇措置が「令和6年度税制改正」で追加されました。
これらの優遇措置を利用することで法人税の納税額が抑えられるでしょう。
賃上げ促進税制が強化されるわけとは?
令和6年度の税制改正で賃上げ促進税制が強化されました。これによりどのようなメリットがあるのでしょうか。
制度の詳しい内容とともに解説するので、参考にしてください。
賃上げ促進税制とは?
賃上げ促進税制とは、法人などの給与等支給額が一定以上増加した際に税額から控除できる特別優遇措置のことです。
企業の積極的な賃上げ促進を目的として創設された制度であり、最大45%の控除が受けられます。
令和6年度税制改正では中小企業を対象に繰越控除制度が設けられ、年度に控除しきれなかった控除額は5年間の繰越が可能になりました。
賃上げ促進税制を行うことに起こるメリットとは
賃上げ促進税制のメリットを企業側と労働者側の双方から確認してみましょう。
企業側のメリット
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労働者側のメリット
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・税額控除による節税効果の拡大 ・人材育成の拡充 |
・賃金アップ ・キャリアアップ |
この制度は直接納税額から差し引かれる税額控除であることから、大きな節税効果が期待できるでしょう。また人材育成を目的とした教育訓練費を拡充すれば、その分が控除額に上乗せできるのでさらに節税効果が大きくなります。
労働者側は賃金アップが期待できるだけではなく、企業が積極的に人材育成を行うことでキャリアアップがしやすくなるメリットも生まれるでしょう。
▼節税について詳しく知りたい方はこちら
▼税額控除について詳しく知りたい方はこちら
賃上げ促進税制をする上での注意点とは
賃上げ促進税制は積極的に賃上げや人材育成などを行うことで税額控除が受けられる制度ではありますが、控除を受けようとするあまり支出が大きくなってしまう点に注意が必要です。
例えば税額控除を受けようと考え、従業員の賃金の大幅なベースアップをすると費用がかさんで純利益が赤字になるリスクが高まります。利益の赤字は銀行などで借入を行う際に不利に働くため、おすすめしません。
このような事態を避けるためにも、経営状態などを考慮して利用してください。
まとめ
法人税の減税を解説しました。
法人税を減税することでまわりまわって多くの労働者や消費者にメリットが生まれますが、短期間で目に見える結果が出るわけではありません。
しかし長期的な視点で考えた場合には、多くのメリットがあることから、政府は段階的に法人税の減税を行っています。
法人税減税を理解するためには法人税・法人実効税率・課税ベースなどの知識が必要不可欠です。ぜひ本記事を参考にして知識・理解を深めてください。
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