会社員やアルバイト、パートで働いている人は、毎年11月ごろになると「年末調整」について見たり聞いたりすることが多くなるのではないでしょうか?
それにともなって、以下のような疑問点も出てくると思います。
- 年末調整のやり方が分からない!
- 年末調整って全員しないとなの?
- 手続きに必要な書類は?
- 申告できる所得控除の種類は?
- 年末調整をしないとどうなるの?
そこで、この記事では年末調整について、確定申告との違いや手続きの流れ、所得控除の種類や申請方法などを詳しく解説します。
年末調整ができなかった場合の対処方法やスマホ・パソコンで書類作成ができるおすすめツールも解説していますので、ぜひ参考にしてください。
年末調整とは?
年末調整とは、会社員やアルバイトなど給料を受け取っている人が、正しい金額の所得税を納税するために行う手続きです。
会社員やアルバイトは確定申告をする必要がありませんが、勤務先の会社が毎月の給料から所得税を天引きしており、本人の代わりに税務署に納めています。
しかし、給料から天引きされる金額は給料の支払い額をもとにして計算した概算なので、実際の税額と多少のズレが生じる場合があります。
11月~12月の年末になった段階で、勤務先に向けて所得控除等の申告をすることで、納税額が足りなかったり、払い過ぎたりする問題をなくすことができます。
簡単にいうと、会社によって毎月天引きされた1年分の税金と、年末の段階で判明する正確な税額との差額を調整して、過不足分を精算するための手続きになります。
年末調整と確定申告との違いは?
この2つはどちらも所得税の正確な金額を計算して、納税金額を確定させるという目的は同じです。
主な違いをまとめると以下のようになります。
年末調整 | 確定申告 | |
手続きの内容 | すでに天引きされた税額の過不足を調整する | 収入や支出から所得税の金額を計算し、税務署に納税する |
実施者 | 勤務先の企業 | 納税者本人 |
実施時期 | 11月ごろ~翌年1月 | 翌年の2月16日~3月15日 |
年末調整は、あらかじめ給料から天引きされている金額の過不足を計算して、最終的な税額を出すための手続きです。対象となるのは、会社員やアルバイトなど給料を受け取って働く人です。
一方で、確定申告は納税者が自身の収入や支出から所得税の計算を行い、税務署に直接納税するための手続きです。個人事業主やフリーランス、年金受給者などの人は毎年確定申告を行っています。
年末調整の対象者になる人とならない人は?
年末調整は給料を受け取って働く人はほとんどが対象となりますが、一部対象外になる場合もあります。
どのような人が対象となり、どのような人が対象外となるのか解説します。
対象者になる人とは
企業などに雇われて給料を受け取っている人は、一部の例外を除いてほとんどの人が対象者です。たとえば、会社勤めの正社員、アルバイトやパート、派遣社員などが当てはまります。
会社員やアルバイトなどの人は、毎月振り込まれる給料から所得税が天引きされています。そのため、年末になった段階で正確な所得税額に調整する手続きが、給料を天引きした会社で行われます。
もし年末になる前に退職して、その後別の会社に入社した場合は、後で入社した会社で年末調整を行うことになります。
対象者にならない人とは
給料を受け取って働く会社員などであっても対象外になるのは以下の2つの場合です。
- 受け取る給料が年収2,000万円を超えている場合
- 災害減免法の規定に当てはまる場合
年収2,000万円を超えると本人が自分で確定申告をすることになるため対象外となります。
また災害減免法が適用された場合は、給料から所得税が通常通り天引きされていないため対象外となります。
このように、対象者にならない人はごく限られた場合のみで、ほとんどの人は対象者となります。
年の途中に年末調整を行う必要のある人とは
年末ではなく年の途中に年末調整を行う必要があるのは、退職するなどして給料を受け取らなくなる場合のうち、一定の条件に当てはまる場合です。
本来は退職後に別の会社に入社すると、次の職場で年末調整を行います。しかし、一定の条件に当てはまり次の職場で給料を受け取る見込みがない場合は、退職した時点で年末を待たずに手続きが行われます。
具体的には、以下の条件に当てはまる場合です。
- 非居住者となった場合(海外勤務など)
- 勤務先を退職し、以下の4つのいずれかに当てはまる場合
- 死亡による退職
- 著しい心身の障害により退職し、同じ年に再就職する見込みがない場合
- 12月分の給料を受け取った後に退職した人
- 年収103万円以下のパートで、他の会社から給料を受け取る見込みがない場合
上記のような場合は、年末まで待つことなく退職した時点で手続きを行うことになります。
年末調整のスケジュールや流れとは?
年末調整の手続きは、11月〜翌年の1月31日までの期間に行う必要があります。
実際の流れは下記のようになります。
スケジュール | 手続内容 | 実施者 |
11月下旬 | 従業員が申告書類を提出する | 納税者 |
12月 | 税額の計算を行い、過不足を精算する | 雇用主 |
翌年1月 | 税務署に書類を提出する | 雇用主 |
手続きの流れとしては、正確な税額の計算をするために、所得控除関係の書類に記入し、控除を受けるための証明書類を添付して提出します。
しかし、手続きの開始が早すぎると従業員が申請すべき控除の内容が判明しないため、通常は11月下旬ごろから書類の提出を開始することが多いです。
従業員側が行う手続きは、11月下旬に控除を受けるための書類を提出すれば、それで完了となります。あとは勤務先が手続きを行いますので、提出した書類についての確認や修正依頼があれば対応するだけで問題ありません。
雇用主は、従業員から提出された書類をもとにして最終的な所得税の計算を行います。計算の結果、過不足があった場合は12月または1月の給料を支払うときに、差額を徴収したり、還付したりします。
雇用主にとっての期限は翌年の1月31日です。この日までに手続きを完了させ、税務署に書類を提出します。
年末調整に必要な書類とは?
ここからは、年末調整に必要な書類について解説します。
勤務先で年末調整をするときに、以下の4種類の書類が必要になります。
- 扶養控除等(異動)申告書
- 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書
- 保険料控除申告書
- 住宅借入金等特別控除申告書
名称の長い書類がありますが、「兼」の文字で区切られた3つの申告書が1枚の書類にまとめられているためです。
なお、これらの書類の実際の様式を確認したいときは、国税庁ホームページからPDFファイルをダウンロードできます。
以下でそれぞれの書類について詳しく見ていきましょう。
1.扶養控除等(異動)申告書
扶養控除等(異動)申告書は、源泉控除対象配偶者についての申告や、扶養控除や障害者控除を受けるために必要な情報を記載して提出します。
源泉控除対象配偶者として認められるためには、配偶者の所得金額が年間で95万円以下という条件がありますので、この書類で配偶者の所得金額の見積額を記載することになります。
扶養親族についても、16歳以上という年齢の条件と、所得金額の条件がありますので、控除の対象となる扶養親族の氏名や生年月日、所得金額を記載します。
本人または扶養親族が障害者の場合と、本人が寡婦、ひとり親、勤労学生に当てはまる場合は、その内容を記載します。
なお、この扶養控除等(異動)申告書は、年末調整の際に当年分と翌年分の2年分をセットで提出します。当年分は、1年間で扶養親族などについての情報に変化がなかったかどうかを確認するために使われます。翌年分も同時に提出を行い、その情報をもとに翌年1月からの源泉徴収額の計算が行われます。
ダウンロード先:A2-1 給与所得者の扶養控除等の(異動)申告
2.給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書
この書類は、以下の3種類の申告書が1枚の用紙にまとめられたものです。
- 給与所得者の基礎控除申告書
- 給与所得者の配偶者控除等申告書
- 所得金額調整控除申告書
書類の名称が長いためややこしく感じるかもしれませんが、上記の通り3つの所得控除について1枚の書類で申告する様式になっています。
基礎控除は誰でも適用される控除ですが、所得金額に応じて控除額が3段階に分かれています。年末調整を行う勤務先以外の所得があれば記入して、合計の所得金額を申告します。
配偶者控除は、配偶者の氏名や生年月日に加えて、配偶者の所得金額を記入します。配偶者の所得金額に応じて配偶者控除が適用されるか、配偶者特別控除が適用されるのかが判断されます。
所得金額調整控除については、その年の給与収入が850万円を超える場合にのみ記入します。
ダウンロード先:A2-4 給与所得者の基礎控除、配偶者(特別)控除及び所得金額調整控除の申告
3.保険料控除申告書
保険料控除申告書は、主に生命保険や介護医療保険、個人年金、地震保険などを対象とした書類です。保険会社の名称や保険の種類、支払った保険料などを記入します。
勤務先に入社する前に国民健康保険に加入していた場合などは、社会保険料控除の申告にも使うことができます。この場合も、保険料の支払いを証明できる書類を添付します。
また、小規模企業共済等掛金控除の対象となる場合も、この書類で支払った掛金を申告することで、控除を受けることができます。
保険料控除申告書を提出するときに、生命保険会社や損害保険会社から発行された証明書類を添付する必要があります。確実に控除を受けるために、証明書類は紛失しないよう注意しましょう。
4.住宅借入金等特別控除申告書(該当者のみ)
住宅借入金等特別控除申告書は、住宅ローン控除を申請するための書類です。
住宅ローン控除は、住宅ローンの契約をしてマイホームの新築や増改築をした場合に適用できる控除です。
注意点として、対象のマイホームに住み始めた最初の年については、年末調整で控除を受けることができないため、自分で確定申告をする必要があります。
2年目以降は、住宅借入金等特別控除申告書を勤務先に提出することで、年末調整で控除を適用することができます。その際に、住宅ローンを契約している金融機関から発行されるローン残高の証明書を添付する必要があります。
ダウンロード先:年末調整で住宅借入金等特別控除の適用を受ける方へ
年末調整の計算の仕方や流れとは?
ここからは年末調整の実際の計算方法について見ていきましょう。
基本的な流れは、その年の実際の所得税額を算出して、すでに源泉徴収されている税額との差額を明らかにする計算を行います。
具体的には、以下のような手順で計算を行います。
- その年の給与収入を計算する
- 給与所得控除を差し引き、給与所得を計算する
- 所得控除を差し引き、課税所得を計算する
- 税率をかけて、所得税額を計算する
- すでに源泉徴収された税額と所得税額の過不足を計算する
それぞれのステップを以下で詳しく見ていきましょう。
1.その年の給与収入を計算する
まずその年に勤務先から受け取った1年間の給与収入を計算します。
個人の所得税の計算は、毎年1月1日~12月31日までの収入に対して行います。基本的には1月分から12月分までの毎月の給与の金額を合計し、賞与の金額を足した合計金額が給与収入となります。
副業や転職などで2か所以上から給与を受け取っている場合も、すべての勤務先からの給与を合計します。
このときに、計算の元になる数字は、勤務先から発行された給与明細の金額を参照することが大切です。
なお年末調整をする段階では12月の給与は支給されていませんので、12月分については予定の金額で計算を行いましょう。
2.給与収入から給与所得控除を差し引いた給与所得を計算する
次に、計算した給与収入から給与所得控除を差し引きます。その結果、給与所得の金額を求めることができます。
計算式は以下のようになります。
- 給与収入 ー 給与所得控除額 = 給与所得
このように、単純な引き算で求めることができます。
給与所得控除とは、給与所得に対して適用できる控除で、控除額は収入金額によって以下のように決められています。
給与等の収入金額 | 給与所得控除額 |
1,625,000円まで | 550,000円 |
1,625,001円から1,800,000円まで | 収入金額×40%-100,000円 |
1,800,001円から3,600,000円まで | 収入金額×30%+80,000円 |
3,600,001円から6,600,000円まで | 収入金額×20%+440,000円 |
6,600,001円から8,500,000円まで | 収入金額×10%+1,100,000円 |
8,500,001円以上 | 1,950,000円(上限) |
表にある「給与等の収入金額」は、上記の1で計算した1年間で受け取った給与と賞与の合計金額のことです。
このように、給与収入が大きいほど給与所得控除の金額も大きくなっていきます。
3.給与所得から所得控除を差し引いた課税所得を計算する
給与所得が計算できたら、そこから所得控除を差し引きます。その結果、所得税の計算のもととなる課税所得が求められます。
- 給与所得額 - 各種所得控除 = 課税所得
所得控除には様々な種類があり、個人の状況それぞれによって差し引かれる金額が変わります。また、同じ人でも年度によって適用できる控除の種類が変わる場合があります。
たとえば、配偶者がいる人は配偶者控除で38万円を差し引くことができます。扶養親族がいる場合も1人38万円の控除が適用されます。
その他に社会保険料や生命保険料、一定以上の医療費を支払った場合や、住宅ローンを組んでいる場合など、様々な控除があります。適用できる所得控除の種類が多いほど税金の金額も安くなっていきます。
4.所得税額を計算する
課税所得の金額が計算できたら、決められた所得税率を掛けて、所得税額を計算します。
税率は課税所得の金額により以下の7段階に分かれています。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
税率10%以上になる区分では、税率を掛けた後の数字から一定の控除額を差し引いた金額が所得税額となります。
計算式にすると以下のようになります。
- 課税所得 × 所得税率 - 控除額 = 所得税額
この計算で得られた数字が、実際に納税する正確な所得税の金額となります。
なお、令和19年までは復興特別所得税(所得税額の2.1%)もあわせて納税する必要があります。
5.所得税額と年間の源泉徴収税額から過不足を計算
給与所得者は雇用主から給与を受け取る際に概算の所得税が源泉徴収されています。
上記で計算した正確な所得税額と、年間の源泉徴収税額から過不足を計算するのが年末調整の手続きです。
所得税額が源泉徴収税額より少なかった場合は、実際の税額より多く天引きされていることになります。差額が12月分または翌年1月分の給与受取時に勤務先から還付されます。
所得税額が源泉徴収税額より大きい場合は、源泉徴収では所得税を全額納税できていないことになります。この場合は、勤務先の給与から差額が追加で徴収されることで、過不足の調整が行われます。
年末調整で受けられる控除や確定申告でしか受けられない控除とは?
所得控除にはたくさんの種類がありますが、年末調整ですべての控除を申告できるわけではありません。
一部の所得控除は確定申告をしないと受けられないため注意が必要です。
以下では「年末調整で受けられる控除」と「確定申告でしか受けられない控除」の2点をそれぞれ解説していきます。
年末調整で受けられる控除
年末調整で受けられる控除の種類と対象者をまとめると以下のようになります。
年末調整で受けられる控除の種類 | 控除の対象者 |
基礎控除 | 誰でも受けられる |
配偶者控除・配偶者特別控除 | 配偶者がいる人 |
扶養控除 | 扶養家族がいる人 |
社会保険料控除 | 社会保険料を支払った人 |
生命保険料控除 | 生命保険料を支払った人 |
地震保険料控除 | 地震保険料を支払った人 |
障害者控除 | 自身や家族、扶養親族が障害者に当てはまる人 |
寡婦控除 | 寡婦である人 |
ひとり親控除 | ひとり親である人 |
勤労学生控除 | 年間75万円以下の給与所得を得る学生 |
住宅ローン控除(初年度を除く) | 住宅ローンを組んで新築や増改築をした人 |
小規模企業共済等掛金控除 | 小規模企業共済法で規定された共済契約の掛け金を支払った人 |
所得金額調整控除 | 給与と年金の両方を受け取っている人、特別障害者など |
基礎控除は誰もが受けられる控除ですが、所得金額によって控除額が変わりますので、年末調整で申告する必要があります。たとえば、勤務先以外に収入があり所得が増えて控除額が変わる場合があるためです。
配偶者控除と配偶者特別控除額は、配偶者の所得金額によってどちらが適用されるのか決まります。勤務先は配偶者の所得金額を把握していませんので、年末調整で申告する必要があります。
各種の保険料控除や住宅ローン控除についても、正確な保険料の支払額や住宅ローン残高を勤務先に伝える必要があります。
ほとんどの所得控除については、年末調整で申告することが可能になりますね。
確定申告でしか受けられない控除
確定申告でしか受けられない控除は、以下の4点が挙げられます。
- 医療費控除
- 住宅ローン控除(初年度)
- 寄付金控除
- 雑損控除
医療費控除は適用する機会が多い控除ですが、年末調整では申告できず、確定申告が必要となります。
住宅ローン控除については2年目以降は年末調整で申告できますが、最初の1年目は確定申告を行う必要があります。
寄付金控除とは、国や地方公共団体への寄付を行ったときに受けられる控除です。雑損控除は、災害や盗難などの被害で損失があり、やむを得ない出費をしたときに受けられる控除です。
上記の控除は勤務先の年末調整では申告できませんので、控除を申請するためには確定申告を行う必要があります。
年末調整で受けるべき所得控除を紹介!
年末調整で受けるべき所得控除は、どのようなものがあるのでしょうか。ここから解説していきます。特に、以下の5種類の控除は多くの人が対象となりますので、忘れずに申告するようにしましょう。
- 保険料控除
- 住宅ローン控除
- 医療費控除
- 配偶者控除・配偶者特別控除
- 扶養控除
それぞれの控除について、以下で詳しく見ていきましょう。
1.保険料控除
納税者が各種の保険料を支払ったときに控除を受けることができます。
個人の所得税での保険料に関する控除は以下の3種類があります。
- 社会保険料控除
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
社会保険料控除は健康保険や年金保険料、雇用保険料などを支払った場合に適用できる控除です。納税者自身だけでなく配偶者や親族のための保険料も含まれます。
生命保険料控除は、生命保険料のほかに個人年金や介護医療保険料を払ったときに適用できる控除です。地震保険料控除は損害保険での地震保険の掛け金を支払ったときに適用できる控除です。
2.住宅ローン控除
住宅ローン控除は、住宅ローンの契約をして自分が住むための家を新築したり、増改築した場合に適用できる控除です。正式名称は住宅借入金等特別控除です。
住宅の床面積や住宅ローンの返済期間が10年以上であることなど細かい条件が多数ありますので、適用可能かどうか早い段階で確認しておくことが大切です。
適用が認められれば、その年の住宅ローンの残高に応じた金額の控除を13年間にわたって受けることができます。
なお年末調整で住宅ローン控除の申請が行えるのは2年目以降からです。初年度については年末調整では申告できず、確定申告を行う必要がありますので注意してください。
3.医療費控除
医療費控除は、1年間に支払った医療費が10万円を超える場合に受けられる控除です。
配偶者や子供など、家族が支払った医療費も対象に含めることができます。控除の上限は最大200万円と高額ですが、保険金で補填があった場合は、その金額は計算に含めることはできません。
医療費控除については、勤務先の年末調整では申告できません。翌年の2月16日~3月15日までに確定申告を行い、支払った医療費を税務署に申告する必要があります。医療費控除を受けたい給与所得者は、年末調整と確定申告の両方を行うことになります。
4.配偶者控除・配偶者特別控除
納税者に配偶者がいる場合に受けられる控除です。この2つの控除は、配偶者の所得金額によってどちらが適用されるかが決まります。
まず、配偶者の所得が年間48万円以下の場合は、配偶者控除が適用されます。控除額は納税者の所得金額に応じて13万円~38万円のいずれかになります。
配偶者の所得が48万円を超える場合は配偶者控除を受けることができませんが、その代わりに配偶者特別控除が適用されます。ただし、配偶者控除と比べると控除額が低く、配偶者の所得額に応じて3万円~38万円の控除額が適用されます。
配偶者の所得が133万円を超える場合は、いずれも控除も適用されなくなります。
5.扶養控除
扶養控除は子供や親など扶養親族がいる場合に適用できる控除です。
扶養親族1人につき38万円の控除を受けることができます。もし複数人の対象となる扶養親族がいる場合は、人数分の控除を受けることができます。なお配偶者(妻または夫)については配偶者控除がありますので、扶養控除の対象とはなりません。
ただし、扶養親族が16歳以上30歳未満という年齢の条件があり、16歳未満の子供は対象外となります。また、扶養親族自身に収入があり、所得が48万円を超える場合も対象外となりますので注意しましょう。
年末調整をしないとどうなる?
何らかの原因で年末調整が行われなかった場合はどうなるのでしょうか?
まず、従業員に給与を支払う雇用主には、年末調整を行う義務があると所得税法で決められています。雇用主が年末調整を行わなかった場合、悪質なケースでは罰金や懲役などの罰則が設けられています。
ただし、上記は年末調整を行う義務がある雇用主の場合です。会社に雇われて給与を受け取っている側は、たとえ年末調整をしなかったとしても、上記のような罰則の対象になる心配はありません。
給与を受け取る側が年末調整を受けられない場合、以下のような税金面でのデメリットが考えられます。
- 本来受けられる控除が受けられなくなる
- 所得税の過払い分が還付されない
- 次の年の住民税額が高くなる
- 自身で確定申告をしないといけなくなる
それぞれのデメリットについて詳しく見ていきましょう。
1.各種控除の申請が出来ず、控除を受けられない
年末調整を行わなかった場合、各種控除の申請ができず、控除を受けられなくなってしまいます。
会社員など給与所得者は、勤務先が源泉徴収と年末調整を行うことにより、確定申告をする必要がなくなっています。つまり、本来は確定申告で行う所得控除の申請を、代わりに年末調整で行っています。
そのため、年末調整を行わず、確定申告もしなかった場合は、所得控除を受けることができなくなってしまいます。
2.所得税の過払い分が還付されない
受けられるはずの所得控除が適用されなかった場合、所得税の納税額が本来の税額より高くなります。
給与所得者は毎月の給料から所得税が源泉徴収されていますが、これは各種控除を適用していない概算の金額です。毎年の年度末に年末調整を行うことで、自分が対象となる様々な控除を適用し、徴収されすぎた所得税が還付される仕組みになっています。
しかし、年末調整を行わなかった場合は、この還付を受けることができなくなります。その結果、本来より高い金額の所得税を払うことになります。
3.次の年の住民税額が高くなる
年末調整を行わないことが原因で、次の年の住民税が高くなる場合もありますので注意が必要です。これは、住民税の税額が、所得税の申告内容を元に計算されているからです。
上記で説明した通り、年末調整を行わないと、所得税の計算で本来適用できる所得控除が適用できなくなります。
その結果、住民税の計算においても本来適用できる控除が適用されなくなりますので、住民税も本来の税額より高くなってしまいます。
4.自身で確定申告をしないといけなくなる
上記で説明したとおり、何らかの原因で年末調整が行われなかった場合、本来受けられる所得控除が適用されなくなります。
年末調整をせずに所得控除を適用するためには、翌年に自分で確定申告をしなければならなくなりますので注意が必要です。通常は勤務先で行われる年末調整の方が、確定申告の手続きよりも簡単で、手間もかからずすぐに完了します。
確定申告をすれば所得控除が適用されないという状況は避けられますが、本来は不要な手続きが発生することになります。できる限り勤務先の年末調整で申告するようにしましょう。
年末調整を忘れた時はどうすればいい?
給与所得者は控除の申請を年末調整で行うのが基本ですが、事情があり年末調整ができないこともあるでしょう。年末調整の手続きを忘れてしまったり、後になって適用できる控除があることに気づいた場合などが考えられます。
年末調整ができなかったときは、翌年になってから自分で確定申告を行うことで所得税の還付を受けることができます。申告期間は2月16日から3月15日までなので、遅れないように早めに準備をしておきましょう。
確定申告の手続き方法は、マイナンバーカードを読み込んでオンラインで申告できるe-Taxが便利です。その他に国税庁ホームページで申告書を作成して印刷したり、税務署に備え付けてある紙の確定申告書を入手して手書きで記入する方法もあります。
確定申告の詳しいやり方については別の記事で解説していますので、そちらも参考にしてください。
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各種控除を受けるための証明書類は、確定申告書に添付して税務署に提出することになります。申告により還付が認められた場合は、税務署から直接所得税が還付されます。確定申告書の提出時に還付金の受け取り用の銀行口座を登録し、通常は1ヶ月程度で登録した銀行口座に振り込まれます。
年末調整をするのにおすすめの計算ツールを紹介します!
ここでは、年末調整をするときにおすすめの計算ツールを厳選して5つ紹介します。
年末調整ソフトを利用すれば、年末調整の必要書類の作成や税額計算を自動的に行うことができます。書類作成にかかる労力や時間を大幅に減らすことができ、計算ミスや記入漏れを防ぐことができますので、スムーズに年末調整の手続きを完了できます。
以下で、おすすめの年末調整ソフト5つに加えて、国税庁が提供している無料の年末調整ソフトも紹介しますのでぜひ参考にしてください。
1.マネーフォワード クラウド年末調整
公式ページ | https://biz.moneyforward.com/tax-adjustment/ |
特徴 | ・クラウドでの書類配布・回収で年末調整業務をペーパーレス化 ・従業員はアンケート形式で簡単に申告可能 |
料金プラン | ・スモールビジネス 年額35,760円 ・ビジネス 年額59,760円 ・従業員数51名以上 見積もり ・個人プラン 年額10,800円~35,760円 |
マネーフォワードクラウド年末調整は、年末調整での所得額や控除額を自動的に計算し、従業員ごとの年税額を算出してくれるツールです。給与計算ツールとは別になっていますので、すでに別のシステムで給与計算を行っている企業に向いています。
従業員側の操作のしやすさも特徴で、従業員はアンケート形式で画面の質問に答えていくだけで年末調整の申告ができるようになっています。
マネーフォワードクラウド年末調整には個人向けプランもあります。主に確定申告書の作成と取引先への請求業務に対応しています。医療費控除のために確定申告が必要なときに役立つでしょう。
2.オフィスステーション 年末調整
公式ページ | https://www.officestation.jp/nencho/ |
特徴 | ・法改正時に自動アップデートで対応 ・金融機関並みの高度なセキュリティ |
料金プラン | ・登録料110,000円 ・従業員数5,000名まで 従業員1名あたり550円 ・従業員数5,000名以上 見積もり |
クラウド型の労務管理ツールで高いシェアを持つオフィスステーションの年末調整ソフトです。年末調整業務をオンラインで行い、ペーパーレス化することができます。
従業員側はスマホやパソコンを使って簡単に申告書を提出できるのがメリットです。シンプルな「はい」「いいえ」の形式で14の質問に回答することで、作業時間最短3分で年末調整の申告が完了するようになっています。
金融機関並みの高度なセキュリティを備えていますので、情報管理に不安のある中小企業でも安心して導入できるでしょう。法改正があった際の自動アップデートにも対応しています。
オフィスステーションシリーズの勤怠・労務管理、給与明細、有給管理などと組み合わせて使えるほか、APIを利用した他社システムとの連携にも対応しているのもメリットです。
3.奉行Edge 年末調整申告書クラウド
公式ページ | https://www.obc.co.jp/bugyo-edge/adjustment |
特徴 | ・年末調整のすべての業務をデジタル化 ・9,300社以上の導入実績 |
料金プラン | ・従業員数20名まで 1名あたり月額45円 ・年額目安 10,800円 |
奉行Edge 年末調整申告書クラウドは、従業員への申告書の配付・回収、給与システムへの入力などすべてのプロセスをデジタル化できる年末調整ツールです。紙の書類による手続きをなくすことで、正確で素早い年末調整業務を実現できるのが特徴です。
これまでの9,300社以上の導入実績をもとにツールの使い勝手が最適化されていますので、年末調整を行う各従業員に応じた柔軟な対応が可能となります。
また、法改正への対応やマイナポータル連携など、国税庁が推奨している年末調整業務ができるのもよいところです。
4.ジョブカン給与計算
公式ページ | https://payroll.jobcan.ne.jp/ |
特徴 | ・給与計算システムと年末調整ツールを一度に導入できる ・高度なセキュリティ対策 |
料金プラン | ・従業員数5名まで 無料 ・中小企業 月額400円 ・従業員数500名程度以上 見積もり |
ジョブカン給与計算は幅広い機能を備えた給与計算システムで、年末調整業務にも対応しています。各種書類の配布と回収をオンラインで行い、紙の書類の記入が不要となりますので、従業員や担当者の負担軽減とミスの削減に繋がります。
セキュリティ対策も十分に行われており、従業員の個人情報やマイナンバーの適切な管理ができます。金融機関と同等レベルの暗号化通信で情報漏洩を防げるほか、事前に登録したIPアドレスのみでしかアクセスできない設定も可能です。
勤怠管理システムをはじめとしたジョブカンシリーズのツールと連携できるのもメリットです。
5.フリーウェイ給与計算
公式ページ | https://freeway-kyuuyo.net/ |
特徴 | ・給与計算ソフトと年末調整ツールを低コストで導入できる ・従業員数5名までなら無料、有料プランも従業員数無制限 |
料金プラン | ・従業員数5名まで 無料 ・従業員数6名以上 年額23,760円 |
フリーウェイ給与計算は、幅広い機能を備え、年末調整業務にも対応可能な給与計算ツールです。インターネットとパソコンがあれば導入可能で、使い勝手のよいシンプルな管理画面を備えています。
特徴は、従業員数が5名以下なら無期限で無料で利用できるところです。従業員数が6名を超えると有料プランとなりますが、年間23,760円で対応可能な従業員数が無制限なのがメリットです。
低コストで利用できますが、2024年7月時点で約11万ユーザーが利用という実績があり、安心して導入できるサービスです。
6.国税庁が提供する<無料>年末調整ソフト
公式ページ | https://www.nta.go.jp/users/gensen/nenmatsu/nencho.htm |
特徴 | ・納税者の年末調整書類作成が無料でできる ・国税庁の提供なので安心して利用できる |
料金プラン | 無料 |
国税庁では、納税者向けに、勤務先に提出するための年末調整関係の書類を簡単に作成できるツールを無料で提供しています。
名称は「年末調整控除申告書作成用ソフトウェア(年調ソフト)」で、国税庁の提供なので安心して利用できることと、無料で利用できるのがメリットとなるでしょう。
パソコンやスマホを使い、画面の質問に回答していくだけで書類の作成が可能です。各種の保険料など、控除証明書のデータを入力すると控除額を自動的に計算してくれます。また、作成した控除申告書を勤務先にデータで提出する機能も搭載されています。
国税庁が提供する年末調整ソフトは、国税庁ホームページからダウンロードできるほか、iPhoneやAndroid端末向けのアプリストアでも提供されています。
まとめ
この記事では給与所得者の年末調整について、確定申告との違いや手続きの流れ、必要書類などについて解説しました。
年末調整はほとんどの給与所得者が対象者となり、毎年11月から12月にかけて行う手続きです。年末調整により所得控除の申告を正しく行い、源泉徴収された所得税の過不足を調整することができます。適用できる控除によっては天引きされた所得税が還付される場合もありますので、忘れずに手続きを行いましょう。
具体的な手続き方法は、勤務先に所得控除の申告書と控除を受けるための証明書類を提出すれば完了します。ただし、何らかの事情で年末調整ができなかった場合は、自分で確定申告をする必要がありますので注意しましょう。
ぜひこの記事でお伝えしたことを参考にしていただき、スムーズに年末調整の手続きを完了させてください!
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