所得税は個人の1年間の収入から経費を引いた所得金額に対して課税される税金です。
会社員として働く場合は気にする機会は多くありませんが、フリーランスや個人事業主になったり、副業をしたり、給与所得以外の所得が発生すると、自分で判断して確定申告を行い、正しい金額の所得税を納税する必要があります。
しかし、これまで確定申告をしたことがない人からすると、以下のような疑問点が出てくるでしょう。
- 所得税は年間いくら稼いだら発生するの?
- 確定申告が必要なのはどんなとき?
- 所得税の計算方法は?
- 所得控除にはどんな種類があるの?
- 所得税を納めないとどうなるの?
そこで、この記事では所得税の計算方法や確定申告の必要性の判断方法など、所得税の基礎知識について詳しく解説します。税金の負担が軽くなる所得控除の詳細や、税額を抑えるための方法についても解説しますので、ぜひ参考にしてください。
所得税とは?
所得税とは個人が1年間で得た所得に対して課される税金です。所得には、会社員の給与やフリーランスの事業収入、投資の収益などがあります。
以下で所得税についてさらに詳しく解説します。
源泉所得税との違いは?
所得税と源泉所得税の主な違いは納税の方法です。
会社員の場合は毎月の給与から所得税が源泉徴収されています。勤務先の会社が毎月給与から天引きを行い、本人に代わって納税している税金のことを源泉所得税と呼んでいます。
個人事業主やフリーランスの場合は申告納税制度となり、通常は収入の発生源での源泉徴収は行われず、自分で所得税を計算して納めます。この場合は源泉徴収されていませんので、通常の所得税と呼ばれます。
このように納税方法の違いが主なので、源泉所得税と所得税の基本的な計算方法や税率、税額に違いはありません。
所得税の税率
所得税の税率は、課税される所得金額に応じて7段階に分かれています。
税率は累進課税となり、課税所得金額が大きいほど税率が高くなっていきます。つまり、稼いだ金額が大きいほど税率が高くなります。
実際の税率を国税庁ホームページから引用すると以下のようになります。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
表の引用元:国税庁ホームページ
計算方法は以下のとおりです。
- 所得税額 = 課税される所得金額 ✕ 税率 – 控除額
所得税は年収いくらから発生する?
年収金額が低かった年や、経費が大きくかかった年は所得税が発生するのか判断に迷うこともあるでしょう。
所得税は年収いくらから発生するのか、個人事業主やフリーランスと給与所得者の場合それぞれについて解説します。
個人事業主やフリーランスの場合
個人事業主やフリーランスの場合は基本的に毎年確定申告を行うのが通常ですが、1年間の所得が48万円以下であれば確定申告をする必要はなくなります。
これは、所得額が2,500万円を超えない限り誰でも受けられる基礎控除の控除額が48万円だからです。48万円以下の所得に基礎控除を適用すると必ず課税所得が0円になりますので、その年は所得税が発生しなくなります。
所得控除とは、所得金額に税率を掛ける前に控除することができる金額のことです。所得控除については、この記事の後ほどで詳しく解説しますので、そちらも参考にしてください。
会社員やアルバイト・パートなどの給与所得者の場合
会社員やアルバイト・パートなどの給与所得者には、基礎控除に加えて給与所得控除が適用されます。そのため、個人事業主などと比べて所得税が発生する金額は高くなり、年間所得が103万円を超えた場合に所得税が発生します。
なお給与所得者が勤務先からもらう給与から経費を引くことはできませんので、通常は受け取った給与の金額がそのまま給与所得金額となります。
会社員やアルバイト・パートの場合は勤務先で年末調整があるため、勤務先が1か所のみで副業をしていないなら確定申告の必要はありません。勤務先の会社が毎月の給料から天引きする形で代わりに所得税の納税を行ってくれています。
確定申告が必要な人
次に、確定申告が必要になるケースについて見ていきましょう。
以下で様々なケースについて、確定申告が必要な人はどんな人なのか詳しく解説します。
個人事業主やフリーランス
個人事業主やフリーランスの場合は、1年間の所得金額が48万円を超えた場合に確定申告が必要となります。
ここでの所得金額とは、収入金額から経費を引いた金額のことです。発生した収入金額だけでは確定申告が必要かどうかは判断できず、1年間の経費を引いた所得金額を計算してから判断する必要がありますので注意してください。
たとえば、個人事業主でECサイトを運営し、売上が年間100万円だった場合を考えてみましょう。
100万円の売上を発生させるために1年間で70万円の経費が発生した場合、所得金額は30万円なので確定申告は不要です。一方で、1年間の経費が50万円だった場合は、所得金額は50万円となり、確定申告が必要となります。
その年の給与所得が2,000万円以上の人
会社員やアルバイト・パートなどの給与所得者で、副業をしていない場合は、給与所得が2,000万円を超えたときに確定申告が必要です。
給与所得者は勤務先の会社が所得税の源泉徴収を行っており、年に1回年末調整を行って納税額に過不足がないように調整をしています。これらが確定申告の代わりとなりますので、特別な控除を受けたいなどの理由がなければ確定申告をする必要はありません。
副業の所得が年間20万円以上の人
会社員など通常は確定申告が不要になる人でも、副業を行って、その副業の所得が年間20万円を超えた場合は確定申告が必要になります。
たとえば、本業の年収が500万円の会社員が副業をしたケースについて考えてみましょう。
副業の所得が1年間で50万円だった場合は、年間20万円を超えるため確定申告が必要です。
一方で、副業の所得が10万円だった場合は、年間20万円を超えないため確定申告は不要です。この例では本業と合わせると510万円の所得がありますが、本業の部分は勤務先が年末調整を行いますので、本人が改めて確定申告をする必要はありません。
副業の所得を計算する際に、事業所得や雑所得、不動産所得などは必要経費を引くことができます。副業収入から副業のために支出した経費を引いて、残った金額が20万円を超えるかどうかで確定申告の必要性を判断しましょう。
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副業で「給与」を受け取っている場合
次に、副業で給与を受け取っている場合について見ていきましょう。本業の勤務先とは違う会社でアルバイトやパートなどダブルワークの副業をして、2か所以上の会社から給与をもらっている場合です。
この場合、本業の会社の給与のことを「主たる給与」と呼び、アルバイトなど副業の側を「従たる給与」と呼びます。
確定申告については、従たる給与の年間の所得が20万円を超えた場合に必要となります。逆に、従たる給与が年間20万円を超えない年は確定申告は必要ありません。
理由は勤務先の会社による年末調整は1か所でしかできないことになっているからです。本業の会社で年末調整を行うと、副業の会社では年末調整ができません。そのため、本人が確定申告書を作成して申告を行い、税金に過不足があれば納税する必要があります。
副業で報酬を受け取っている場合
このケースは副業マッチングサービスやクラウドソーシングを利用して副業を行い、副業の収入を「報酬」として受け取っている場合です。この場合は、事業所得または雑所得のどちらかに分類されます。
このケースでは、まず受け取った報酬から必要経費を引き、1年間の所得金額を計算します。この所得金額が年間20万円を超えた場合は確定申告が必要です。逆に、年間所得が20万円を超えない場合は確定申告が不要となります。
報酬を受け取る副業で、事業所得に分類される例としては、デザイン、イラスト制作、動画編集、コンサルティング、広告運用、プログラミング、ライティング、翻訳、ブログのアフィリエイト収入など多数あります。
雑所得に分類される例としては、ポイントサイトの報酬やスキルシェアサービスでの短期的なレッスン、反復継続性があまりない商品販売などがあります。
このように副業の収入を報酬で受け取る仕事の種類はたくさんありますが、企業と交わす契約の種類で判断できます。業務委託契約を結んで報酬を受け取る副業をした場合は、この項目のケースに当てはまります。一方で、副業の会社と雇用契約を結んで給与を受け取っている場合は、ひとつ上の「2か所から給与を受け取っている場合」に当てはまります。
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一定の公的年金を受給している人
一定の公的年金を受給しているケースでは、確定申告が不要になるのは以下の2つの条件を満たす場合です。
- 源泉徴収されている公的年金の受け取り額が年間400万円以下である
- 公的年金を含めた雑所得以外の所得金額が20万円を超えない
上記2つの条件の両方を満たす場合は、確定申告が不要です。
このケースでは、基本的な考え方は給与をもらっている会社員と似ている点があります。公的年金から源泉徴収されていて、それ以外に副業をしていない場合、年金受給額に応じた所得税をすでに納めていますので確定申告をする必要がありません。
株取引で一定の利益がある人
株取引で一定の利益を得ている人は、確定申告を行う必要があります。ただし、利益の金額や証券会社での取引口座の種類によって変わります。
株取引の利益とは、株を売却して得た金額から、購入するときに支払った額を引いて残った金額のことです。株取引の差額で発生した利益は譲渡所得に分類されます。
専業のトレーダーなど、株取引以外に所得がない場合は、株取引の利益が年間48万円を超えると確定申告が必要となります。48万円以下の場合は、基礎控除を適用した時点で所得税が発生しないため確定申告は不要です。
会社員などで株取引以外に所得がある人の場合、株取引の利益が年間20万円以下の場合は確定申告は不要となります。
また、証券会社で取引口座を作るときに、自動的に源泉徴収される「特定口座・源泉徴収あり」の口座を選択した場合は、確定申告が不要になります。
NISA口座は税制上の優遇措置が受けられる口座です。利益が120万円までにおさまるなら確定申告の必要がなくなります。
フリーランスや個人事業主など毎年確定申告をしている人の場合は、株取引で所得が発生したら少額であっても本業の所得とあわせて申告する必要があります。
不動産所得、譲渡所得がある人
所有している不動産を貸すことで家賃収入が発生したり、所有する土地や建物などの売却をした場合は確定申告が必要です。家賃収入が発生している場合は不動作所得に分類され、売却して収益があった場合は譲渡所得に分類されます。
ただし、その年の収入が不動産所得や譲渡所得のみで、経費を引いた所得が年間で48万円を超えない場合は所得税が発生しませんので確定申告は不要です。
会社員など給与所得者や主な収入源が公的年金の人の場合、不動産所得または譲渡所得が年間20万円を超えた場合に確定申告が必要となります。
所得税の計算方法
ここからは、実際に所得税の税額を計算する方法について見ていきましょう。
所得税の税額を計算する手順を整理すると、以下のようになります。
①|年間の収入を計算する
②|①から経費を差し引く
③|②の金額から所得控除額を引く
④|③の金額に所得税の税率をかける
⑤|④の金額から税額控除額を引く
この5つのステップに分けることで、単純な足し算と引き算、掛け算の計算を順番に進めていくだけで、最終的に所得税の金額を算出できます。
正しい税額を計算するコツは、計算の元になる数字に間違いがないように、明細書や領収書など記録になる書類から金額を転記しながら計算することです。たとえば、2か所から給料をもらっている給与所得者なら給与明細を、業務委託で報酬を受け取っているフリーランスなら支払調書などを準備して、そこに記載されている金額を使って計算していきましょう。
それでは、所得税の税額を計算する手順について、以下でより詳しく見ていきましょう。
①|年間の収入を計算
まず、年間の収入を計算しましょう。
確定申告は対象の年の1月1日から12月31日までの所得について行いますので、年間の収入も同じ期間で計算しましょう。ビジネスの年度の区切りが4月1日からになる場合もありますが、その場合でも個人の所得税の計算は1月1日から12月31日までとなります。
収入とは、業務委託で働くフリーランスや、在宅ワークの副業の場合は、受け取った報酬の総額です。個人事業主でお店を経営したりサービスを提供している場合は、年間の売上の合計となります。
会社員やアルバイトなどの給与所得者なら、給与明細に記載されている総支給額が収入金額となります。
②|①から経費を差し引く
次に、年間の収入金額から経費を差し引きましょう。
たとえば、個人事業主なら発生した売上から仕入れ費用、従業員の人件費、オフィスの家賃などを差し引きます。クラウドソーシングなどを利用したフリーランスの仕事でも、仕事用のパソコンやソフトの購入費用、インターネットの通信費、案件マッチングサービスの手数料など様々なものを経費にできるでしょう。
不動産を貸付して家賃収入がある場合の例では、管理費や修繕費、広告宣伝費などに加えて、固定資産税や都市計画税も経費として計上できます。
その他の所得として分類される雑所得でも必要経費を差し引くことが認められています。たとえばスキルシェアサービスを通じて単発のレッスンを行い報酬を受け取った場合、プラットフォームの手数料やコミュニケーションツールの利用料などを経費にできます。
このように、発生する収入の種類に応じて様々なものを経費として計上することが認められています。収入から経費を引いた後に残った金額が、年間の所得金額となります。
なお、収入から差し引く経費は、1月1日から12月31日までの1年間で支払ったものが対象なので、少額の経費を頻繁に支払うビジネスでは、管理が非常に大変となります。このようなときは売上や経費の記録をサポートしてくれる会計ソフトの利用がおすすめです。
③|②の金額から所得控除額を引く
次に、②の金額から個人の事情に応じて税の負担を軽減できる所得控除額を引きます。
所得控除には15種類があり、ほとんどの人が特別な条件なしで受けられる48万円の基礎控除や、扶養家族がいる場合に適用できる扶養控除、生命保険料を支払ったときに適用できる生命保険料控除、病院などで一定以上の医療費を払ったときに適用できる医療費控除などがあります。
どの所得控除が適用になるかは人によって様々ですが、毎年同じ種類の所得控除を適用する場合が多いです。たとえば扶養家族がいる人は毎年同じように扶養控除を適用しますし、社会保険料や生命保険料の支払い額は毎年同じような金額になる場合が多いです。
初めて確定申告をするときはややこしく感じるかもしれませんが、毎年同じ手続きを繰り返すことで、徐々に慣れてくるでしょう。
④|③の金額に所得税の税率をかける
③の計算で求めた課税所得金額に、所得税の税率をかけると、所得税の金額が計算できます。
所得税の税率は累進課税となります。税率は5%から45%までの7段階があり、③で計算した課税所得額が大きいほど税率が高くなります。
この記事の冒頭で所得税率の表を国税庁ホームページから引用し、実際の計算例も記載していますので、再度確認してみてください。
なお、2037年までの期間は、ここで計算した所得税の金額に加えて復興特別所得税(税率2.1%)が加算されますので注意しましょう。
⑤|④の金額から税額控除額を引く
④で計算した所得税の金額から、適用できる税額控除があればその金額を差し引きます。
税額控除とは、条件を満たした場合に所得税額から決められた金額を差し引くことができる控除制度です。
たとえば配当所得がある場合に適用できる配当控除や、特定の寄付金を支払った場合の寄付金控除、住宅の新築や増改築をした場合に対象となる住宅借入金等特別控除などがあります。
税額控除には会社員でも利用できるものや個人事業主向けのものなど様々な種類があります。大きな支出があった年は、その支出によって適用できる所得控除や税額控除がないか確認してみるようにしましょう。
所得控除の種類
ここからは、所得税を計算する際に適用できる所得控除の種類について見ていきましょう。
所得控除にはたくさんの種類があり、種類ごとに控除を受けるための条件や、控除額の計算方法が決められています。
以下で、使われることの多い所得控除の種類と計算方法や手続き方法を紹介します。
生命保険料控除
生命保険料控除では、その年に支払った生命保険料などの金額に応じて所得控除が受けられます。
対象となる保険契約の種類は以下の3つです。
- 生命保険料
- 介護医療保険料
- 個人年金保険料
ただし、保険期間が5年未満など短い契約の場合、対象外となる場合があります。
生命保険料控除の控除額の計算方法については、以下に国税庁ホームページの表を引用します。
年間の支払保険料等 | 控除額 |
20,000円以下 | 支払保険料等の全額 |
20,000円超40,000円以下 | 支払保険料等×1/2+10,000円 |
40,000円超80,000円以下 | 支払保険料等×1/4+20,000円 |
80,000円超 | 一律40,000円 |
引用元:国税庁ホームページ
生命保険料控除の手続き方法は、確定申告書の生命保険料控除の欄に金額を記載し、確定申告書の提出時に保険料の支払金額などを証明できる書類を添付します。
会社員の場合は、年末調整のときに勤務先の担当者の指示に従って申請しましょう。
医療費控除
医療費控除は、年間で10万円を超える医療費を支払ったときに受けられる所得控除です。
納税者本人の医療費だけでなく、「自己と生計を一にする配偶者や他の親族」の医療費も対象となります。
病院への通院や入院で支払った医療費や、薬局などで医薬品を購入したときに支払った費用も計算に含めることができます。ただし、生命保険などで補填された金額は対象外となります。
医療費控除は最大200万円まで控除でき、計算式は以下のようになります。
- (実際に支払った医療費の合計額 – 保険金などで補填される金額) – 10万円
医療費控除の手続き方法は、確定申告をするときに「医療費控除の明細書」を作成して添付します。医療費の領収書などは必ず保管しておくようにしましょう。
住宅ローン控除
住宅ローン控除は、自分が住むための家(マイホーム)を購入したり、増改築やリフォームのために住宅ローンで借り入れした人が利用できる所得控除です。正式名称は住宅借入金等特別控除となっていますが、同じものです。
住宅ローン控除には細かい条件が多数ありますが、基本的にその年の年末時点のローンの残高に0.7%を掛けた金額が控除額になります。
- 控除額 = 年末の住宅ローン残高 ✕ 0.7%
控除限度額が対象の住宅の区分ごとに決められており、最大で14万円~35万円まで控除できます。
住宅ローン控除の手続き方法は、確定申告の提出時に決められた提出書類を添付して申請します。
会社員の場合、適用する最初の1年目は確定申告書の提出が必要となりますが、2年目以降は年末調整で申請することができます。
特定支出控除
特定支出控除は会社員やアルバイトなど給与所得者を対象とした所得控除です。
対象の特定支出は7種類あり、転勤のための転居費用や単身赴任先と自宅の間の旅費、資格の取得費用などが当てはまります。
特定支出の合計金額が、その人の年収によって決まる給与所得控除額の2分の1を超えた場合に控除の対象となります。
特定支出控除の計算式は以下のようになります。
- 控除額 = その年の特定支出の合計額 – 給与所得控除額の2分の1
控除額は給与所得控除額の2分の1を超えた部分の全額です。
特定支出控除は年末調整では手続きができませんので、税務署で確定申告を行う必要があります。その際に、該当する支出を行ったことを証明する書類を添付して手続きを行います。
その他の控除
上記で紹介したもの以外にも、以下のようにたくさんの種類の所得控除があります。
- 基礎控除
- 社会保険料控除
- 地震保険料控除
- 雑損控除
- 扶養控除
- 配偶者控除
- 配偶者特別控除
- 勤労学生控除
- ひとり親控除
- 障害者控除
- 寡婦控除
- 寄附金控除
- 小規模企業共済等掛金控除
社会保険料控除は、健康保険や年金などの保険料の支払金額に応じて適用される控除です。会社員の場合は勤務先が源泉徴収する金額に反映されていますが、それ以外の自分で確定申告をする人は支払額を計算して確定申告書に記載する必要があります。
雑損控除は、災害や盗難などで損害を受け、そのためにやむを得ない支出があった場合に適用できます。
扶養控除は条件を満たす扶養親族がいる場合に受けられる控除です。
配偶者がいて、その配偶者の所得が48万円以下の場合は配偶者控除の対象となります。配偶者の所得が48万円を超える場合でも、133万円以下なら配偶者特別控除を使うことができます。
このように、各個人の状況に合わせた所得控除がたくさんあります。使える制度は最大限に活用して、正しい金額の所得税を計算しましょう。
所得税を抑えるには?
ここからは、所得控除や税額控除などの制度を使って、所得税を抑える方法について解説します。
活用できる制度を正しく適用することで、本来よりも税金を払いすぎてしまうことを防げます。
所得控除と税額控除を活用する
所得控除と税額控除は、個人それぞれの事情にあわせて所得税の負担を軽減できる制度です。
所得控除の種類については上の項目で解説していますが、配偶者控除や扶養控除、社会保険料控除、医療費控除などは多くの人が対象になるでしょう。まずは自分が適用できる所得控除の種類を確認し、証明書などの書類を紛失しないよう大切に保管しておきましょう。
所得控除や税額控除を適用するには、その費用を支払ったときの証明書や領収書を準備します。そこに記載された金額をもとに確定申告書に記入することで、課税所得を抑えることができます。
会社員など給与所得者の場合は、所得控除の手続きは年末調整で行います。その年に払った保険料や医療費などの金額を記載した申請書を勤務先の担当者に渡すことで各種控除が適用された過不足のない所得税額が決定されます。
還付申告によって税金が返ってくる場合もある
この記事で解説した「確定申告が不要になるケース」に当てはまる場合でも、所得控除などを適用できるときは、還付申告によって税金が返ってくる場合もあります。
還付申告ができるのは主に給与所得や年金所得など、支払者が源泉徴収を行っている場合です。源泉徴収された税額が本来の額より大きい場合に、還付申告により払いすぎた税金が戻ってきます。
フリーランスや個人事業主が確定申告の金額計算を間違えてしまい、本来より税金を払い過ぎている場合は、更正の請求書を作成して申告内容を訂正することで税金が返ってきます。
たとえば、「適用できる所得控除の申請を忘れていた」「税金を払いすぎていることに後になって気付いた」というときは、還付申告や更正の請求を行いましょう。ただし、期限は所得が発生した年の翌年から起算して5年間までなので注意してください。
青色申告で確定申告をする
個人事業主やフリーランスの場合は、青色申告で確定申告を行うことにより最大65万円の青色申告特別控除が利用できます。個人事業主は収入から必要経費を引くことができ、そこからさらに青色申告特別控除が適用されれば、大幅に所得税を抑えることができます。
注意点として、青色申告をするためには事前に税務署に申請を行う必要があります。申請期限は青色申告を開始する年の3月15日となり、年度の途中から開業した場合は開業後2ヶ月以内です。期限を過ぎると翌年度からの適用となります。
所得税の徴収漏れによるリスクとは
最後に、所得税の徴収漏れによるリスクについて解説します。
所得税の徴収漏れには、たとえば以下のような理由が考えられます。
- 年末調整が必要なのに行わなかった場合
- 所得税が発生しているのに納税しなかった場合
- 期限内に確定申告をしたが納税額に不足があった場合
- 納付期限を過ぎた場合
このようなケースでは、本来は納税すべき所得税が発生していても、適切な手続きが行われないために所得税の徴収漏れとなります。
以下で所得税の納税漏れがあるとどのようなリスクがあるのか具体的に見ていきましょう。
年末調整をおこなわなかった場合
年末調整が必要なのに行わなかった場合は、所得税法違反と判断される可能性があります。故意に年末調整をしなかったり、税務署からの指導に従わないといった悪質なことがあれば、「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」が課せられる場合があります。
年末調整が必要なのに行わない例としては、個人事業主が従業員を雇って給与を支払った場合が考えられます。配偶者以外の一般の従業員に給与を支払うと、法人化していなくても雇い主が責任を持って年末調整を行う必要があります。制度について知らなかったなどの理由で年末調整が行われないと、所得税の徴収漏れとなる場合があります。
なお年末調整の義務は給与を支払う側にあります。企業や個人事業主に雇われて給料を受け取る側は、このケースをあまり気にする必要はないでしょう。雇用主の指示に従って手続きをすれば、問題なく年末調整が完了するはずです。
所得税を納税しなかった場合
従業員を雇っている事業主のケースで、年末調整を行ったにもかかわらず所得税を納税しなかった場合は、罰則がさらに重くなります。悪質と判断されれば「10年以下の懲役または200万円以下の罰金」が課せられる場合があります。
また、確定申告の義務がある個人が、申告期限内に確定申告をせず、納税もしていない場合は「無申告加算税」の対象となる場合があります。
まず、期限内に確定申告を行わなかった場合、そのことに気づいた段階でできるだけ早く申告を行い納税する必要があります。この場合は期限後申告として扱われます。無申告加算税は、この遅れて納税された税額に対して50万円までの部分は15%、50万円を超える部分は20%が加算されます。
納税額に不足があったり、納付期限を過ぎたりした場合
その他のケースとして、期限内に確定申告をしたが計算に間違いがあり、納税額に不足があった場合は、「過少申告加算税」が適用される可能性があります。特に、税務署からの調査を受けた後に申告内容を修正した場合は、この税金が加算される可能性が高くなります。
過少申告加算税の税率は、修正後の納税額と最初に誤って過小に申告していた税額の差額に対して10%です。大幅に過小申告していた場合など、差額が大きいほど加算される税額が大きくなりますので注意が必要です。
もう1つの、所得税の納付期限を過ぎた場合については、「延滞税」が加算される可能性があります。延滞税の税率は年率7.3%~14.6%で、延滞している日数分が必要です。
まとめ
この記事では、所得税の納税について、確定申告が必要になる金額や税額の計算方法、各種控除などを詳しく解説しました。
会社員として働く場合は勤務先の会社が源泉徴収を行いますので、所得税や確定申告について意識する機会は多くないかもしれません。
しかし、給与以外の所得が発生すると、ほとんどの場合は確定申告が必要となり、自ら税額の計算をした上で納税する必要がありますので注意してください。
また、各種の所得控除や税額控除について理解し、活用できる制度は最大限に活用したうえで、過不足なく正しい税額を納税するようにしましょう。
ぜひこの記事でお伝えしたことを参考にしていただき、毎年の確定申告や所得税の計算で役立ててください。
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