新規事業のWeb集客は、検索回数から取れる売上の上限を自社の数字で出し、事業計画の目標と並べてから計画に入れます。認知も実績も無い商材の売上をWebに頼る前提で計画を組むと、根拠の無い数字が後の期まで残り、届かなかったときに何を直せばよいかが分からなくなるためです。上限を出したら、新規事業のページを既存のサイトに載せるか分けるかを決め、この2つを営業とマーケが自分の数字として持てる1枚にして渡します。
この記事では、年間の上限を出す式と実績の無い率の置き方、目標に届かないときに動かすもの、サイトの置き場所を決める確認項目、企画の段階で売る側に渡す1枚の項目を順に扱います。
新規事業のWeb集客が既存事業と違う点

この記事でいうWeb集客は、検索・広告・SNS・紹介などを通じて自社のサイトに人を呼ぶ活動を指します。立ち上げの順番や最初に動かす施策、受け皿のページの作り方はここでは扱わず、計画に置く数字の決め方に絞ります。既存事業と一番違うのは、計算に使う率を手元に持っていないことです。
既存事業の率を流用できない理由
既存事業のクリック率や問い合わせ率を、新規事業の計画に流用するのはやめましょう。既存事業の率は、買い手が商材と会社を知っていて、決まった言葉で探してくる状態で出た数字です。新規事業は買い手も探す言葉も違い、商材の知られ方はほぼゼロから始まるので、同じ率が出る根拠がありません。流用する代わりに、率を1つの値ではなく幅で置き、幅のまま計画に載せます。
Web集客の主な施策と届く量を決める要因

Web集客の施策は、名前で並べるより、届く量の上限を何が決めるかで2つに分けると計画に使えます。検索に応える施策と、検索を待たない施策です。分け方を決めておくと、どの施策の数字を同じ式で足してよいかが分かります。
検索に応える施策と検索回数の天井
SEO(検索結果の上位に表示されるための取り組み)とリスティング広告(検索結果に出す広告)は、すでに探している人に応える施策です。順位をどれだけ上げても、広告費をどれだけ積んでも、対象の言葉が検索される回数を超えて人は来ません。届く量の天井が検索回数で決まるので、検索回数を起点に売上の上限を計算できます。新規事業の計画にWeb経由の売上を置くなら、まずこちらの側で上限を出してください。
検索を待たない施策と予算や配信先の天井
広告の配信やSNSのように、探していない人へ届けにいく施策は、検索回数に縛られません。天井を決めるのは、使える予算・配信できる相手の数・フォロワーの数です。天井の決まり方が違うので、検索の式には混ぜず、別枠で見積もってから合計に足します。
検索回数から見積もるWeb経由の売上の上限

ここで出すのは、計画の目標から必要な数を割り戻した数字ではありません。市場で検索されている回数から、取れる売上の上限を出す計算です。向きを逆にすることで、目標が市場の天井にどれだけ近いかが見えます。
年間の上限を出す式
年間の上限は、次の式で出します。
年間の上限=V×(12−M)×c×i×w×P
- V:対象にする言葉それぞれの月間検索回数を足した値
- M:上位に表示されるまでにかかると見込む月数(引くのは初年度だけ)
- c:検索結果からサイトに来る割合
- i:サイトに来た人が問い合わせる割合
- w:問い合わせが受注になる割合
- P:受注1件あたりの単価
出た値は売上の見込みとして使わず、事業計画の売上目標に届く余地があるかを判定する材料にします。
実績の無い率を3水準で置く手順
c・i・wは1つの値に決めず、楽観・中間・厳しめの3水準で置きます。根拠の強さは記号ごとに違うので、根拠のある記号は幅を狭め、根拠の無い記号は厳しめ側に寄せます。どの根拠をどの記号に使えるかを先に整理してから値を入れてください。
根拠ごとに置ける記号
| 根拠 | 置ける記号 | 置き方 |
|---|---|---|
| 自社の近い商材のサイトの Search Console | c | 近い言葉で、同じくらいの平均掲載順位にあるページのクリック率を中間に置き、前後に楽観と厳しめを置く |
| 営業の記録 | w | 近い商材の受注の記録を楽観の側に置き、知られていない分を差し引いて中間と厳しめを置く |
| 小さな試験の結果 | c・i | 実際に出た値を中間に置き直す |
Search Console ヘルプでは、クリック率はクリック数を表示回数で割った値として定義されています。自社の別のサイトの数字を借りるときも、この定義どおりに計算し直してから使います。
根拠が無い率の置き方と置き直し
どの根拠も無い率は、3水準とも厳しめ寄りに置き、楽観の側を広げません。根拠が無いまま楽観を高く置くと、上限が目標に届いたように見え、確かめる前に計画が固まるためです。そのうえで3水準のまま計画に載せ、試験の結果が出たら、その記号の幅を狭めて置き直します。空欄のまま「あとで入れる」としておくと、計画の売上目標が式と切り離されたまま動き出すので、幅を持たせてでも値を入れておきます。
検索回数が表示されない語の扱い
キーワードプランナーで検索回数が出ない語は、ゼロとも小さな値とも置かず、式から外して「測れない分」として別に書きます。Google 広告ヘルプでは、キーワードプランナーは検索回数がごく少ないキーワードを見つけられず、予測も出せないと説明されています。出ないことは、検索されていないことも、少しは検索されていることも示さないので、どちらの値を入れても計算が根拠の無い方向に傾きます。この扱いは、その語が探されているかを判断する話とは別で、計算に入れるかどうかだけを決めるものです。計画には、3水準の結果の横に測れない語の一覧を添えて載せます。
売上の上限と事業計画の目標の突き合わせ

3水準の上限が出たら、事業計画の売上目標と同じ期間にそろえて並べます。どの水準で目標に届くかによって、計画の中でのWebの扱いが変わります。届かない場合も、動かす先を決めれば計画は組み直せます。
3水準のどこで目標に届くかの読み方
目標と3水準を並べたら、次の表で計画での扱いを決めます。
| 目標との関係 | 読み方 | 計画での扱い |
|---|---|---|
| 厳しめでも届く | 率が想定より低くても目標を超える | Webを主の経路に置く |
| 中間なら届く | 率の当たり外れで届くかが分かれる | 率を確かめる試験を計画に入れ、結果が出るまではWeb以外の経路も残す |
| 楽観でも届かない | 率が良くても天井が目標より低い | 4つの動かし先から組み合わせを選ぶ |
楽観でしか届かないときは、中間の行と同じく試験を先に入れます。試験で楽観の値が出なければ、動かし先の検討へ進みます。
目標に届かないときに動かす4つの変数
動かせるのは、目標と期限、受注単価、対象の言葉、検索以外の経路の4つです。目標を楽観の上限で割り、何倍の伸びが要るかを先に出してから、4つで動かせる幅を並べて、その倍率に届く組み合わせを選びます。1つに頼らず組み合わせで考えるのは、どの変数にも副作用があるためです。
4つの動かし先と副作用
| 動かすもの | 式での位置 | 選ぶ条件 | 副作用 |
|---|---|---|---|
| 目標を下げるか期を延ばす | 式の外(比べる相手を変える) | 他の3つで倍率に届かない | 事業全体の回収の時期が後ろにずれる |
| 受注単価を上げる | P | 提供する範囲を広げるか、価格を上げる余地がある | 受注になる割合 w が下がりうる |
| 対象の言葉を広げる | V | 商材が答えられる近い課題の言葉がある | 問い合わせになる割合 i が下がりうる |
| 検索以外の経路を足す | 式の外(別枠で見積もって足す) | 予算・配信先・フォロワーの天井に余地がある | 費用と運用の手間が別にかかる |
必要な倍率から組み合わせを選ぶ
VとPは式の中で掛け算になっているので、それぞれで伸ばせる倍率を掛け合わせて、必要な倍率と比べます。届けば目標は動かしません。届かない分は検索以外の経路で埋め、それでも足りなければ最後に目標か期限を動かします。目標を最後に回すのは、目標を動かすと採用や投資の計画まで組み直しになるためです。
c・i・wの3水準の差が大きいときは、4つを動かす前に率を確かめる試験を入れて幅を狭めます。幅が広いままだと、必要な倍率そのものが定まらず、どの組み合わせで足りるかを判定できないからです。
最初の期の売上を計画に書くときの前提
上限は届きうる天井で、売上を約束する数字ではありません。上位に表示されるまでと、率が実際の値で固まるまでは、売上が上限より下で推移する前提で計画を書きます。年間で1つの数字を置かず期ごとに分け、初めの期は表示待ちと試験の期間として低く置きます。率が固まった期からは、3水準のどこに乗っているかを見て、後の期の数字を置き直します。
既存事業のサイト・ドメイン・ブランドの使い分け

新規事業のページを既存のサイトに載せるか、別に立てるかは、自社の事業の条件で決めます。置き場所はあとから動かすと作業と影響が大きいので、上限を出したのと同じ計画の段階で決めておきます。顧客リストの扱いはここでは対象にしません。
新規事業のページを置く3つの場所
置き場所は、既存サイトの下の階層(サブディレクトリ)、既存ドメインのサブドメイン、新しいドメインの3つです。Google 検索セントラルと Search Console ヘルプの記述で比べると、違いは次のとおりです。
| 置き場所 | 分けやすさと運用 | 検索結果に出すサイト名 | Search Console での計測 |
|---|---|---|---|
| サブディレクトリ | 同じホストで運用が軽いが、サイトを分けにくい | 持てない(ドメイン側の名前になる) | 既存と同じプロパティで見る |
| サブドメイン | 設定が簡単でサイトを分けやすい | サブドメインごとに持てる | ドメインプロパティに含まれる。URLプレフィックスで分けても見られる |
| 新しいドメイン | 既存から完全に切り離す | ドメインごとに持てる | 別のプロパティになる |
寄せるか分けるかを決める確認項目
6つの項目に自社の答えを入れ、「寄せる」と「分ける」のどちらに多く傾くかを見ます。ただし、あとから変えにくい項目が「分ける」に傾いたときは、数に関係なく分けます。
6つの確認項目
| 確認項目 | 寄せる | 分ける |
|---|---|---|
| 買い手が既存事業と重なるか | 重なる | 重ならない |
| 検索結果に既存と別の名前を出したいか | 出さなくてよい | 出したい |
| 将来の分社・売却・撤退の見込みがあるか | 無い | ある |
| 運用する担当と更新の手順が既存サイトと同じか | 同じ | 別 |
| 計測を既存と分けて見たいか | まとめてよい | 分けたい |
| 既存ブランドの約束と食い違わないか | 食い違わない | 食い違う |
傾きが割れたときの決め方
「別の名前を出したい」か「分社・売却・撤退の見込みがある」のどちらかが「分ける」なら、分けます。サイト名はサブディレクトリでは持てず、あとから移すとURLの移転が要るためです。それ以外の項目だけが割れるなら寄せ、計測はURLプレフィックスのプロパティで分けて見ます。運用と計測はあとから調整できるからです。
分けると決めたら、既存ブランドの約束と食い違うときは新しいドメイン、食い違わないときはサブドメインを選びます。食い違う名前を同じドメインの下に置くと、既存の買い手に誤った期待を持たせるおそれがあるためです。
あとから置き場所を移すときの作業と影響
Google 検索セントラルのサイト移転の説明では、URLを変える移転をすると、再クロールと再インデックスが進む間、検索順位が一時的に変動しうるとされています。中規模までのサイトでも、新しいURLが検索結果に反映されるまで数週間以上かかることがあると書かれています。立ち上げの時期にこの変動が重なると、率を確かめる試験の結果も読みにくくなります。分社・売却・撤退の見込みは、置き場所を決める前に必ず確かめてください。
企画の段階で営業とマーケに渡す1枚

上限とサイトの置き場所が決まったら、売る側が自分の数字として持てる形にして渡します。渡すのは計画の数字だけでなく、その数字がどの前提で出たかと、まだ決まっていない点です。
企画と販売のチームが分かれたときのずれ
企画した側は、上限を出したときの率の水準、計算から外した語、まだ決めていない価格を知っています。売る側に計画の数字だけが渡ると、その数字は前提の付かない目標として扱われます。届かなかったときに、率が違ったのか、言葉が違ったのか、売り方が違ったのかを切り分けられず、直す場所が決まりません。前提と未決の点を数字と一緒に渡せば、売る側が自分で数字を直せる状態になります。
1枚に載せる項目と埋める人
1枚は、決まっている「渡す中身」と、決まっていないことを隠さず載せる「空欄のまま渡す未決」の2種類で作ります。
| 種類 | 項目 | 主に埋める側 |
|---|---|---|
| 渡す中身 | 狙う相手 | 企画 |
| 渡す中身 | 約束する中身 | 企画 |
| 渡す中身 | 想定する検索の言葉 | 企画(営業・マーケが直す) |
| 渡す中身 | 3水準の上限と目標の差 | 企画 |
| 渡す中身 | サイトの置き場所と検索結果に出す名前 | 企画 |
| 渡す中身 | 集客に回す予算の枠 | 企画 |
| 空欄のまま渡す未決 | まだ決まっていないこと(項目と期限の欄だけ置く) | 企画と営業・マーケ |
集客に回す予算の枠は、開発に予算を使い切らないよう、企画の段階で先に置いておきます。
渡したあとに詰める3つの点
1枚を渡したら、売る側と次の3点を詰めます。
- 上限の計算に入れた言葉のうち、営業が商談で耳にしない言葉を外し、耳にしている言葉を足してVを置き直す
- 上限と目標の差のうち、営業の経路で埋める分を数字で合わせる
- まだ決まっていないことの一つひとつに、決める期限を付ける
1つ目でVが変われば上限も変わるので、置き直した後の3水準を1枚に書き戻します。3つが済んだ時点で、計画の数字は企画だけのものではなく、売る側と共有した前提の上に乗ります。
新規事業のWeb集客でよくある質問
本文で扱わなかった周辺の問いのうち、上限を出した後によく出る2つに答えます。
Q. Web経由の上限が小さいと分かったら事業をやめるべきか。
すぐにやめる理由にはなりません。ここで出した上限はWeb経由の売上の天井で、事業そのものの上限ではないためです。まずは単価・対象の言葉・検索以外の経路で、目標に届く組み合わせがあるかを確かめてください。事業を続けるかやめるかは、Webの上限とは別の基準で決めます。
▼新規事業を続けるかやめるかの基準を先に決めておきたい方はこちら

Q. Web集客を外に頼む場合も上限の試算は要るか。
要ります。上限と目標の差、サイトの置き場所が決まっていないと、依頼先に何をどこまで頼むかが決まらないためです。外に頼んでも、計画の数字と成果の最終責任は依頼する側に残ります。試算は自社で持ったうえで、依頼先と前提を共有してください。
▼Web集客を任せる体制をどう組むかを知りたい方はこちら

まとめ
新規事業のWeb集客を計画に入れる前に決めることは3つです。
- 検索回数と3水準の率から年間の上限を出し、事業計画の目標と並べて、届かなければ動かす先を組み合わせで選ぶ
- 新規事業のページの置き場所を、名前を分けたいか、分社や撤退の見込みがあるかを軸に、自社の条件で決める
- 上限と置き場所を、前提と未決の点ごと1枚にして営業とマーケに渡し、売る側の言葉で置き直す
明日からできる一歩は次のとおりです。
- 新規事業の買い手が使いそうな言葉を書き出し、月間検索回数を調べて合計する
- 自社の近い商材のサイトの Search Console を開き、クリック率と平均掲載順位を控える
- 事業計画の売上目標を、上限と同じ期間にそろえて書き出す
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