施策の候補が並んで手が止まったら、立ち上げは段階の判定、受注理由の聞き取り、創業者の営業の移し替えの3つを順に決めるところから始めます。広告やSEOを先に選ぶと、誰に何を伝えるかが決まらないまま、資金と時間だけが出ていきます。
まず受注した顧客の記録から、自社がPMF(似た顧客が似た理由で買い続けている状態)の前にいるのか後にいるのかを見分けます。次に顧客本人に買った理由を聞き、売る相手と伝える言葉を決め直します。そのうえで、創業者1人では営業の時間が足りなくなる前に、営業を再現できる経路へ移します。
この記事を読むと、この3つの判断を自社の記録で下す手順が分かります。チャネルごとの期間や予算の式、体制づくりの詳細は、それぞれを扱う記事へ渡します。
スタートアップのマーケティングが最初に担う仕事

立ち上げ期のマーケティングの仕事は、誰が・なぜ買うのかを突き止め、その買われ方を繰り返し起こせる経路に載せることです。チャネル、予算、成果が出るまでの期間は、段階の判定、受注理由の聞き取り、創業者の営業の移し方の3つが決まってから選びます。
軌道に乗った会社のマーケとの違い
違いが大きいのは、予算の決め方と、手を動かす人の2点です。
| 項目 | 軌道に乗った会社 | 立ち上げ期のスタートアップ |
|---|---|---|
| 予算の決め方 | 前年の売上や実績をもとに割り振る | 売上が小さく、資金の残りから使える額を決める |
| 手を動かす人 | マーケの部署や専任の担当者がいる | 創業者か、入ったばかりの1人目が兼ねる |
PMFの前か後かを見分ける方法

PMFは、似た顧客が似た理由で買い続けている状態と言い換えられます。判定に使うのは売上の額ではなく、顧客本人から聞いた買った理由です。その理由を顧客の言葉でそろえて説明できるかどうかで、前か後かが決まります。
受注した顧客の一覧で確かめる問い
判定は、受注した顧客を1行ずつ並べた表で行います。顧客名の横に、次の3つの列を作ります。
| 列 | 書く中身 | 埋まらないときに分かること |
|---|---|---|
| 買った理由 | 顧客が話した言葉そのまま | 理由を自社の推測で書いている |
| 似た立場の顧客か | 業種・役職・抱えていた状況が他の行と重なるか | 受注先がばらばら |
| 決め手 | 契約を最後に決めた一言や出来事 | 何が効いたのか分からない |
推測かどうかは、欄の言葉が誰の口から出たかで見分けます。「使いやすいから」「価格が合ったから」のように自社の側で考えた言葉しか書けない行は、推測で埋めた行です。買った理由の欄が推測でしか埋まらない行が多いなら、PMF前と判定します。そのときは顧客本人への聞き取りで欄を埋め、埋まった表でもう一度判定します。判定と聞き取りを行き来するうちに、表の精度が上がります。
資金調達がどの段階まで進んでいるかではなく、この表の埋まり方で判定してください。
前と後の中間にいるときの扱い
表の一部の行だけ理由がそろう場合は、そろった顧客群に限ってPMF後の仕事を始め、残りはPMF前の扱いを続けます。会社全体をどちらか一方に寄せると、片方の仕事が止まるからです。
そろった顧客群とは、「似た立場の顧客か」の列で同じ立場に当たり、かつ「買った理由」の言葉が重なる行の集まりです。その群に向けては問い合わせの窓口や1本目の経路を整え、残りの行の顧客には聞き取りを続けます。
新しい受注が入ったら同じ表に足し、そろった群の行が増えているかを確かめます。そろった群からの受注が途絶え、別の理由の行ばかり増えるなら、その群に向けた仕事を止めてPMF前の扱いに戻します。表に合わせて扱いを戻すのは後退ではなく、次に聞く相手を決め直す作業です。
段階ごとの最初の仕事と後に回す仕事

手を付ける順序は、段階によって入れ替わります。PMF前は買われる理由を集める仕事が先で、集客の仕組みは後です。PMF後はこの順序が逆になります。
| 段階 | いま手を付ける仕事 | 手を付けない仕事と、そう決める理由 |
|---|---|---|
| PMF前 | 受注先と、商談で止まった相手から理由を集める | 集客の仕組みづくり。向ける相手がまだ決まっていないため |
| PMF後 | 理由がそろった顧客群に向けて窓口と1本目の経路を整える | 顧客群を広げること。型が1つ固まる前に広げると結果が混ざるため |
PMF前の最初の仕事
PMF前に最初にやるのは、受注した顧客と、商談で止まった相手の両方から、買った理由と買わなかった理由を本人の口から集めることです。受注先だけに聞くと、その理由が本当に決め手だったのかを比べられません。聞く相手・時期・項目は、受注理由の聞き取りの手順で決めます。
小さく売って確かめる進め方や、やめる基準の置き方は、新規事業のマーケティングを扱った記事が詳しく書いています。

PMF後の最初の仕事
型は「どんな立場の人が、どんな状況で、何と言って買ったか」の1文にまとめます。窓口のページの一文目、資料請求の入力項目、営業が最初に聞く質問を、この1文に合わせて作ります。
予算は、売上に対する割合で決められる段階ではありません。手元の資金と毎月出ていくお金から、マーケに回せる上限を先に置き、その範囲で1本目の経路を試します。
どちらの段階でも後に回すこと
次の4つは、どちらの段階でも後に回します。理由は共通で、買われた理由を言葉にできないまま始めると、結果を読み解けないからです。
- ロゴやサイトの見た目の作り込み
- 効果を測る手段が無い施策
- 複数のチャネルの同時着手
- 買われた理由を言葉にできない段階での認知広告。投資家に勧められても、この段階なら見送ります
受注が数件のときの受注理由の聞き取り

受注が数件では、業種や規模を並べても共通点はほとんど見えません。属性から探すのをやめ、顧客本人から「なぜ買ったか」を聞き取ります。件数が少ない段階ほど、1件ごとの理由が持つ重みは大きくなります。
聞く相手と時期
聞く相手は、導入を決裁した人と、社内で導入を後押しした人の2人です。決裁した人からは最後に決めた理由が、後押しした人からは社内を説得した言葉が取れます。片方だけでは、買われた理由の半分しか分かりません。
聞く時期は2回に分けます。1回目は受注の直後で、比べた手段や決め手の記憶が新しいうちに聞きます。2回目は使い始めて間もない頃で、買う前に期待したことと使ってみた実感のずれを聞きます。
聞き手には、その顧客を担当した営業本人以外を立てます。担当者の前では顧客が遠慮しやすく、担当者の側も自分の説明が効いたと受け取りやすいためです。創業者が営業した顧客なら、1人目のマーケ担当や別の役員が聞きます。
聞く項目と聞き方
項目は4つに絞り、顧客の答えは要約せずに言葉のまま書き留めます。言い換えた時点で、自社に都合のよい解釈が混ざるからです。
| 項目 | そのまま使える質問 |
|---|---|
| 比べた他の手段 | 「当社のほかに、どんな方法や会社を検討されましたか」 |
| 決め手の一言 | 「最終的に決めた理由を一言で言うと何ですか」 |
| 決める前に起きていたこと | 「導入を考え始めたきっかけは、どんな出来事でしたか」 |
| 社内での通し方 | 「社内で導入を提案したとき、どう説明されましたか」 |
答えの書き留め方
答えは1問ごとに表の1マスへ、顧客が使った語のまま入れます。「手間が減る」と言われたなら、「業務効率化」と書き換えません。書き換えた言葉は、後でサイトや資料の言葉を決め直すときに使えなくなります。
聞き取りの最後に「ほかに聞いておくべきことはありますか」と添えると、こちらが想定していなかった理由が出てくることがあります。
失注と問い合わせだけの相手も並べる
受注した相手、失注した相手、問い合わせだけで止まった相手を、1枚の表に並べます。受注の理由として聞いた言葉が失注した相手からも出ているなら、その理由は決め手ではなかったと分かります。
| 相手 | 結果 | 流入元 | 理由(相手の言葉のまま) |
|---|---|---|---|
| 1行に1社 | 受注・失注・問い合わせのみ | 創業者の直接営業・紹介・Web・その他 | 買った理由・買わなかった理由・止まった理由 |
聞き取りから売る相手と言葉を決め直す

聞き取りの結果は、売る相手、伝える言葉、最初の経路の3つを決め直す材料に使います。どれも、自社が言いたいことではなく、顧客が話した言葉を起点に決めます。
共通する理由で売る相手を1つに絞る
受注が数件の段階では、その数件の買った理由が重なる相手に1つ絞ります。理由が重ならない相手まで抱えると、言葉も経路も平均的になり、どの相手にも届きにくくなるからです。
仮説を立てる段階では、売る相手の候補を2〜3持って試す考え方があります。受注が出始めた段階はその次で、試した結果として実際に買った相手が手元にいます。候補を持つ段階と絞る段階は、順に来るものです。
売上の大きい顧客を数社選んで共通点を探す方法は、件数が少ないこの段階では使えません。数社では、偶然の一致と見分けがつかないためです。
絞った後の施策の結果も、「誰から、何と言って問い合わせが来たか」で読みます。
顧客の言葉で伝える言葉を書き直す
伝える言葉は、顧客が社内で導入を説明したときの言い回しに書き直します。顧客の社内で通った言葉は、まだ買っていない似た立場の人が上司を説得するときにも通りやすいからです。
書き直しは次の3段で進めます。
- 聞き取りの表から、2社以上で重なった言い回しを抜き出す
- サイトの一文目、営業資料の表紙、メールの件名の3か所を、その言い回しで書き直す
- 書き直した後の問い合わせや返信で、相手が同じ言い回しを使っているかを確かめる
2社以上で重なる言い回しが1つも無いときは、言葉を決め直す前に聞き取りの件数を足します。1社だけの言い回しで書き直すと、その1社にしか通じない言葉になるためです。
最初の経路は受注理由から選ぶ
1本目の経路は、失注と問い合わせも並べた表の受注の行で、買った理由と流入元がどこに寄っているかを見て選びます。「検索して見つけた」が多ければ検索からの経路、「紹介された」が多ければ紹介を生む仕組み、「声をかけられた」が多ければこちらから接触する経路を1本目にします。
経路ごとに兆しが見えるまでの期間は違います。その目安は、PMF前の最初の仕事の節で紹介した記事が扱っています。
創業者の直接営業を再現できる経路へ移す時期

創業者の直接営業は、立ち上げ期には正しい経路です。ただし、受注の目標に要る営業時間を創業者1人では賄えなくなる時点が来たら、再現できる経路へ移し始めます。
受注の流入元を件数で並べる
移す時期を見る準備として、失注と問い合わせも並べた表の流入元の列を、受注の行だけ数え直します。
| 流入元 | 受注件数 | 創業者本人なしで起きたか |
|---|---|---|
| 創業者の直接営業 | 自社の件数を記入 | 起きていない |
| 紹介 | 自社の件数を記入 | 紹介元が誰かによる |
| Web | 自社の件数を記入 | 起きている |
| その他 | 自社の件数を記入 | 中身を見て判断する |
見るのは、創業者本人が動かなくても起きた受注がどれだけあるかです。紹介でも、紹介元が創業者の知人ばかりなら、創業者本人の営業と同じ扱いにします。創業者本人なしの受注が1件も無ければ、移す先の経路がまだ無い状態です。受注理由から1本目の経路を選ぶ手順で、移す先を先に作ります。
受注1件にかかる時間から上限を見積もる
創業者の直接営業で取れる受注の上限は、記録から数えた所要時間で見積もります。
- 直近の受注を数件選び、初回の接触から契約までの商談・電話・メールの回数を、カレンダーとメールの記録から数える
- 1回ごとの準備や移動を含めた時間を足し、受注1件あたりの所要時間を出す
- 受注の目標件数×1件あたりの所要時間=創業者に要る営業時間、を計算する
- その時間を、創業者がこの先も営業に確保できる時間と比べる
要る時間が確保できる時間に収まっているうちは、直接営業を続けて構いません。上回る見込みなら、その差が外に移す分量です。記憶で数えると準備やメールの時間が抜け落ちやすいので、必ず記録から数えます。
移す時期を決める目安
業務委託の依頼を受ける側から見てきた中では、依頼の前は経営側が自分で営業や集客を持っていた会社もあります。専任の担当者がいた会社や、兼任の人が回していた会社もあり、会社によってばらつきます。創業者が営業を抱えたままの状態は、移す前の出発点としてめずらしくありません。
移し始める合図は次の2つで、どちらか1つが出たら動きます。
- 創業者本人の営業からの受注は続いているのに、紹介からの件数が細ってきた
- 受注の目標に要る営業時間が、創業者が確保できる時間を超える見込みになった
1つ目は、創業者の人脈が一巡した合図です。2つ目は、目標を上げるほど創業者の時間が足りなくなる合図です。受注が止まってからでは移す準備が間に合わないため、どちらも見込みの段階で動きます。
創業者の営業を仕組みに移す方法

合図が出たら、創業者の手元に残す仕事、外に出す仕事、出した先から社内に引き取る知識を、この順に決めます。残す仕事を先に決めると、外に出す範囲がその残りとして決まります。
創業者が手放さずに残す仕事
創業者が手元に残すのは、次の4つです。
| 残す仕事 | 残す理由 |
|---|---|
| 売る相手の変更 | 事業の向かう先そのものを変える判断だから |
| 価格 | 利益と資金の残りに直結するから |
| 大口の商談 | 1件で受注目標の多くを左右するから |
| 受注理由の聞き取り | 営業を外に出した後は、顧客の言葉を偏りなく受け取れる立場になるから |
体制の組み方や1人目の置き方、最初の90日の段取りは、体制づくりを扱った記事が詳しく書いています。

電話とメールの営業を外の担い手に出す
費用の目安と渡す前に決めること
業務委託の費用は、マーケティングのどの領域でもおおむね月15〜30万円が一つの目安です。見込んでおく稼働の量は週10〜20時間ほどで、ここは人によって差が大きい部分です。この金額の幅を、創業者が確保できない営業時間を埋める費用として、手元の資金から出せる上限と比べます。
立ち上げ初期から知識を共有してもらい社内に残す
外に出すときは、作業の結果だけでなく、やり方を社内に引き取る段取りも一緒に決めます。外の担い手が入れ替わっても、聞き取りの言葉や経路の手順が社内に残るようにするためです。
一つの事例として、株式会社メディアエイドは、外部のマーケティング人材と取り組んだ経験をインタビューで語っていました。同社は「事業立ち上げの初期段階から知識やスキルの共有をしてくださったため」と振り返り、社内での内製化も実現できたと話しています。この事例は同社の事業や体制、依頼した人の経験が前提にあるため、ほかの会社でも同じ結果になる保証はありません。

よくある質問
Q. 受注がまだない段階では何から始めるか。
試験導入してくれた相手や、商談まで進んだ相手に、使ってみた理由と買わなかった理由を聞くところから始めます。受注が無くても、相手の言葉は集められます。聞く項目は、受注した顧客への聞き取りと同じ4つで足ります。集まった言葉を判定の表に「受注前」の行として入れておくと、最初の受注が入ったときにすぐ比べられます。
Q. BtoCのスタートアップでも同じ順番か。
段階の判定から始める順番は同じです。ただし聞き取りの相手は購入した本人になり、経路も個人向けの広告やSNSが中心になるため、手順の細部は変わります。
Q. 1人目のマーケ担当はいつ置くか。
受注理由と1本目の経路の型がそろった後が、一つの目安です。型が無いうちに置くと、担当者は何を繰り返せばよいか分からないまま施策を探すことになります。体制の詳細は、創業者が残す仕事の節で紹介した記事が扱っています。
まとめ
立ち上げは、3つの判断を順に下すことで進みます。
- 受注した顧客の表で、PMFの前か後かを見分ける
- 顧客本人に買った理由を聞き、売る相手と伝える言葉を決め直す
- 創業者に要る営業時間が足りなくなる前に、営業を再現できる経路へ移す
今週やることは1つです。受注した顧客を1行ずつ並べ、買った理由、似た立場の顧客か、決め手の3つの列を埋めてみてください。埋まらなかった欄が、そのまま次に顧客へ聞くことの一覧になります。
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知識の共有は、依頼の初期から範囲に入れておけます。週ごとの作業記録の共有と、手順書を残すことを、依頼の条件に含めます。