既存事業で成果を出した担当にそのまま任せてよいか迷ったら、新規事業のマーケティング人材は実績の大きさより、事業の段階に合う役割を担えるかで選んでください。候補は、仕組みがまだ無い所で最初の顧客を取った経験があるかで見極め、社内で足りない役割は経験者を外から入れて補います。この記事では、求められる人物像、受け持つ役割の範囲、段階ごとに変わる役割、候補の見極め方、確保の手段、担当が動ける社内の条件を順に扱います。新規事業マーケティングの進め方や予算の立て方は、ここでは扱いません。
新規事業のマーケ担当に求められる人物像

新規事業のマーケ担当に要るのは、既存事業で数字を伸ばす力とは別の力です。力の違いを押さえたうえで、既存事業の担当を充てる前に確かめる点と、向く人の共通点を整理すると、人選の候補が絞れます。
既存事業のマーケ担当と求められる力の違い
既存事業のマーケ担当は、出来上がった仕組みを回して伸ばす力で評価されます。新規事業には、その仕組みがまだありません。誰に売るか、何を約束するかを自分で仮に決め、小さく確かめて次の手を選ぶ力が中心になります。
既存事業には、過去の顧客データや効いた広告文、営業が使い慣れた資料がそろっています。担当はそれを土台に、獲得単価を下げたり成約率を上げたりする改善で成果を出します。新規事業では指名検索もなく、比べる過去の数字もありません。見るべきは改善の腕前より、材料が少ない中で何を確かめるかを決め、その結果から次の打ち手を選べるかです。既存事業の担当を候補にするときも、この力があるかで判断します。
既存事業で実績のある担当を充てる前の確認
既存事業で実績のある担当を充てる前に、次の3点を確かめてください。どれも、立ち上がりの時期に起きやすいずれを、人選の段階で防ぐための見方です。
- 数字が動く前の時期に、何を確かめているかを社内へ説明できるか。立ち上げ直後は売上も問い合わせも少なく、説明できないと取り組みそのものが疑われます。
- 既存事業の物差しで、早く良し悪しを決めないか。獲得単価や売上の基準を最初から当てると、育つ前の施策を打ち切ってしまいます。
- 既存事業の評価から外し、新規事業に使う時間を持たせられるか。
1つでも欠けるなら、担当を変えるか、欠けた点を補う人を横に置く形を考えます。
新規事業のマーケ担当に向く人の共通点
向く人の共通点は、次の4つに絞れます。どれも肩書きより、日々の仕事の進め方に表れます。
- 答えが決まっていない状態でも手を止めず、次に確かめることを自分で決められる
- 顧客の声や小さな変化から、自分で問いを立てられる
- 少ない数字でも増減を読み、次の判断に使える
- 営業や開発など社内の人を巻き込み、顧客の反応を集めに行ける
4つすべてを1人に求めると、候補は大きく絞られます。足りない点は、次の章の役割の分け方で補う前提で選ぶと、人選が現実的になります。
マーケ担当が受け持つ役割の範囲

新規事業のマーケティングは、1人に全部を求めず、役割に分けて考えると人選が進みます。戦略を決める人、手を動かす人、周りで支える人の3つの層で見ると整理しやすくなります。
戦略を決める人と手を動かす人の分け方
戦略を決める人は、誰に・何を・どう届けるか、どこでやめるかを決める役割です。手を動かす人は、制作や入稿、配信、架電など、決めたことを形にする役割です。求める力が違うので、候補の経歴も別の物差しで見ます。
戦略を決める人には、顧客がまだいない段階で仮の顧客像を言葉にし、どの順で試すかを決め、続けるかやめるかを言い出せる力が要ります。経歴では、商品や販路の企画に関わったか、施策の優先順位を自分で決めていたかを見ます。手を動かす人は、特定の施策を速く正確に回せるかで見ます。2つを1人で兼ねる場合も、いまどちらの仕事をしているかを分けて考えると、足りない力が見えてきます。この分け方は、仕事の性質から組み立てた整理です。
責任者と支える人を合わせた体制
新規事業のマーケティングは、マーケ担当に事業の責任者と専門の担い手を合わせた3つの役割で組みます。誰がどれを受け持つかを先に決めておくと、人を探すときの条件がぶれません。
| 役割 | 担うこと | 置き場所 |
|---|---|---|
| マーケ担当 | 仮説を立てて試し、結果を読んで次の手を決める | 社内の専任か兼務、または外部の経験者 |
| 事業の責任者 | 予算と方針を決め、続けるかやめるかを判断する | 社内(役員・事業部長など) |
| 専門の担い手 | 広告運用・制作・記事作成など特定の施策を回す | 必要な時期だけ社内外から |
事業の段階で変わる求める役割

求める役割は、仮説検証・初期の顧客獲得・拡大の3つの段階で変わります。自社がいまどの段階にいるかを先に決めると、探す人の条件が定まります。
| 段階 | マーケ担当の主な役割 | 向く人 |
|---|---|---|
| 仮説検証 | 狙う相手と提供価値を言葉にし、少額で試す | 試して結果を読んだ経験がある人 |
| 初期の顧客獲得 | 確かめた仮説を集客の経路に載せ、最初の顧客を取る | 経路を絞り、手を動かす人を手配できる人 |
| 拡大 | 勝ち筋を型にして、関わる人に渡す | 型を作り、数字で社内を説得できる人 |
段階ごとの役割は、施策の性質から組み立てた目安です。自社の状態が2つの段階にまたがるなら、前の段階の役割が埋まっているかから確かめます。
仮説を確かめる段階で要る人
仮説検証の段階で要るのは、狙う相手と提供価値を言葉にし、少額で試して結果を読める人です。稼働の量より、判断の速さが進み具合を左右します。
この段階では、何が売れるかがまだ分かっていません。マーケ担当は、想定する顧客に会ったり、小さな広告や案内を出したりして、反応の有無から仮説の当たり外れを読みます。試す回数を増やすには、1回ごとの判断を短くすることが欠かせません。最初の3か月は、戦略の仮説を言葉にするところから入り、小さく試していく順が基本です。具体的な手順と、取り組みが止まりやすい型、成果の兆しが見える時期の目安は、次の記事にまとめています。

最初の顧客を集める段階で要る人
受け持つ役割は3つです。1つ目は、試した中から勝ちそうな経路を選んで絞ること。2つ目は、経路ごとに広告運用や記事作成などの担い手を手配し、仕事を渡すこと。3つ目は、問い合わせや商談の数を週ごとに読み、経路への配分を変えることです。施策の数が増えるこの段階で、マーケ担当が作業に埋もれると、数字を読む時間がなくなります。ここで挙げた役割は施策の性質から考えた目安で、この形をとれば顧客が集まると保証するものではありません。
事業を広げる段階で要る人
拡大の段階で要るのは、勝ち筋を型にして人に渡せる人と、数字で社内を説得できる人です。マーケ担当を専任にするか、チームにするかを考える時期でもあります。
顧客が取れ始めると、施策も関わる人も増えます。担当1人の勘で回していたやり方は、手順や判断の基準として書き出さないと、人が増えるほど品質がばらつきます。予算を増やすには、どの施策に追加で投じると何が増えるかを、経営や他部署に数字で示す必要も出てきます。仮説検証で力を発揮した人が、型を作る仕事も得意とは限りません。段階が変わったら、同じ人に続けてもらうか、型を作る人を足すかを改めて判断します。これも施策の性質から考えた目安です。
候補が新規事業向きかの見極め方

候補の見極めは、マーケ人材としての一般的な実力とは別に、新規事業に固有の3つの観点で行います。経歴で0から1の経験を読み、面談で仮説の回し方を確かめ、候補の出どころごとに確認点を変えます。
経歴から読む0から1の経験
経歴では、認知がゼロの商品で最初の顧客を取った経験と、新商品や新しい販路の立ち上げに関わった経験を重く見ます。実績の数字の大きさより、その数字が出る前の時期に何をしたかを読むのがこつです。
職務経歴書には、成果の数字が中心に書かれます。新規事業で役に立つのは、市場の反応がまだ無い所で最初に何を打ったか、誰に会いに行ったか、どの時点で方向を変えたかという過程です。経歴書に書かれていなければ、面談で「その数字が出る前に、何から手を付けましたか」と聞けば補えます。既存の商品で数字を伸ばした実績しかない人も、すぐに外さず、新しい商品に近い経験が無かったかを確かめてから判断します。
面談で確かめる仮説の回し方と既存の型の扱い
面談では、市場の反応が乏しいときに次の打ち手をどう決めたかと、前の事業で効いたやり方をどう扱ったかの2点を確かめます。どちらも、新規事業で何度も出会う場面です。
- 出した施策にほとんど反応が無かったとき、次の1手をどう決めましたか
- 前の事業で効いたやり方が通じなかったとき、何を手放して、何を残しましたか
- 社内に顧客の情報がまだ無い状態で、最初に誰の話を聞きに行きましたか
答えに具体的な場面と判断の理由が添えられていれば、0から1の仕事を自分で回してきたと読めます。「上司の指示で」「前と同じやり方で」という答えが続くなら、前の事業の型を持ち込む進め方に寄っていないかを掘り下げます。質問は確かめ方の一例として作ったもので、自社の事業に合わせて言い換えてください。
候補の出どころで変わる確認点
候補が社内異動か、採用か、業務委託かで、確かめる点が変わります。出どころごとに起きやすいずれが違うためです。
社内異動の候補は、既存事業の評価や兼務から外せるかを確かめます。若手の抜擢では社内の調整に時間を取られやすく、管理職の起用では既存事業の仕事と時間を取り合いやすくなります。採用の候補は、立ち上げの経験があると書かれていても、どの段階に、どの役割で関わったかを聞きます。
業務委託の候補は、前の職場と今の働き方で見ると、おおむね次の3通りです。
- 前職は広告代理店か制作会社で、いまはフリーランスとして仕事を受けている
- 事業会社の中でマーケティングや営業を担い、その経験をもとに複業として仕事を受け始めた
- 1社に絞らず、いくつもの会社の支援を同時に受け持っている
新規事業のマーケ人材を確保する手段

新規事業のマーケ人材を確保する手段は、社内で任せる、採用する、育てる、業務委託で経験者を入れる、の4つです。どれを選ぶかは、事業の段階と、その役割をどれだけの期間抱えるかで分かれます。
確保の手段を選ぶ分かれ目
仮説検証と初期の顧客獲得で短く要る役割は、社内の兼務か業務委託で早く確保します。拡大の段階で長く抱える中核の役割は、採用や育成を並行して準備します。段階と抱える期間で分けると、手段を1つに決め打ちせずに済みます。
正社員の採用は決まるまでに時間がかかり、入社のころには段階が進んでいることがあります。仮説検証で要る判断の速さは、待つほど失われます。一方、型を作って人に渡す役割は長く社内に要るので、採用や育成で抱える方が合います。自社の段階がまだ決まらないなら、手段を選ぶのは後にして、段階の表に当てはめる方を先にしてください。この分け方は段階ごとの役割から考えた目安です。手段ごとの費用と期間の比べ方は、次の記事で扱っています。

正社員と業務委託で役割を分ける形
ある事例では、株式会社メディアエイドは、正社員を経験よりもマインドやポテンシャルを重視して採り、必要な知識やスキルは実務経験の豊富な人を業務委託で補っていました。会社側は、この形で事業を速く立ち上げられ、ノウハウを社内に貯められると考えていました。業務委託の人は事業部の立ち上げから顧客の開拓、運用までを担い、社内での内製化にも至ったと語っています。人の組み合わせ方や事業の条件が違えば結果も変わるため、同様の効果を保証するものではありません。

業務委託で頼める範囲と費用の目安
範囲が広いぶん、事業の段階に合わせて頼む中身を変えられます。仮説検証では戦略の言語化を、初期の顧客獲得では経路ごとの実行を、と段階の役割に沿って切り出すと、依頼の範囲がぶれにくくなります。費用の目安は、広告運用・SEO・SNS運用・リード育成のどれを頼む場合も、月15〜30万円の幅に集まりやすく、その金額で受けてもらえる稼働は週10〜20時間ほどです。稼働は人によって差が大きい点も見込んでおきます。予算を見積もるときは、自社で手薄な役割を1つ選んでこの幅に当てはめると、採用と比べる材料になります。
マーケ担当が動ける社内の条件

人を選んでも、評価の物差し、判断の返し方、使える時間の3つがそろわないと、マーケ担当は動けません。人選と同時に、受け入れる側の条件を整えておきます。
売上の前に見る評価の物差し
立ち上げ期のマーケ担当は、売上で評価しないでください。顧客の声をどれだけ集めたか、仮説をいくつ確かめたかといった学びの量で見る物差しを、始める前に決めておきます。
立ち上げ直後は、どれだけ動いても売上が立たない時期があります。その時期に売上で評価すると、担当は確かめる仕事より、目先の数字が出やすい施策を選ぶようになります。物差しは、たとえば「顧客の話をA件聞く」「仮説をB個試して結果を記録する」のように、行動と学びで置きます。A・Bの値は、自社の事業の規模と期間から決めます。売上の目標に切り替える時期もあわせて決めておくと、担当と責任者の間で評価が食い違いにくくなります。
判断の速さと担当の時間の確保
責任者は、担当から相談を受けたときに返事をする期限を先に決めます。兼務の担当には、新規事業に使う時間を週の予定の中で先に枠として押さえます。
始める前に、次の3つを決めておきます。
- 担当が出した案に、責任者が何日以内に返事をするか
- 兼務の担当が、新規事業に使う曜日と時間帯をどこにするか
- 枠を守れない週が続いたとき、誰が既存事業の仕事を引き取るか
社内で育てるときの関わらせ方
社内でマーケ担当を育てるなら、新規事業の実際の施策に関わらせ、施策ごとに振り返って学びを言葉にさせます。経験者と組ませ、横で判断の仕方を見せる形も取り入れやすい方法です。
研修で知識を入れるだけでは、仮説を立てて試す力は身につきにくいものです。1つの施策が終わるごとに、何を確かめ、何が分かり、次に何を変えるかを短く書き残すと、経験が担当の中に積み上がります。
まとめ
新規事業のマーケ人材は、次の順で決めると、人選と確保の手段がぶれにくくなります。
- 自社の新規事業が、仮説検証・初期の顧客獲得・拡大のどの段階にあるかを決める
- その段階でマーケ担当に求める役割と、責任者・専門の担い手の役割を分ける
- 候補ごとに、0から1の経験、反応が無いときの打ち手の決め方、前の型の扱い方を確かめる
- 社内で足りない役割を、兼務・業務委託・採用・育成のどれで補うかを、抱える期間で決める
- 評価の物差し、返事の期限、使える時間を、担当が動き出す前に決める
明日からできる一歩は2つです。
- 段階の表に自社を当てはめ、いま空いている役割に印を付ける
- 手元の候補ごとに、0から1の経験を1行ずつ書き出す
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どの型かを確かめたうえで、0から1の案件に関わった経験を聞きます。出身だけで向き不向きは決まらないので、経験の中身で判断します。